ブトウ糖で脳カアップ

 

 では、実際に血中のブドウ糖量が多いと、脳の機能、たとえば記憶力が増し、ブドウ糖量が少ないと記憶力がおちるのでしょうか。じつは、その通りなのです。

 

 たとえば、「Tで始まる英単語をできるだけたくさん挙げなさい」というような間題を出したとき、ブドウ糖を補給してあげると点数がよくなります。

 

 このような作用は“甘い”ということによる心理的な効果ではありません。それは次のような実験で確認されました。

 

 大学生にサッカリンブドウ糖を飲んでもらいます。もちろん同じ程度の甘さにしてあります。飲んだ一五分後に文章を読み聞かせ、その直後と三〇分後に、文章を思い出して書いてもらいます。問違えた箇所を比べると、ブドウ糖を飲んだグループのほうが、サッカリンを飲んだグループより成績がよかったのです。

 改善度は、両グループの間違い箇所数の比較です。たとえばサッカリンーグループの間違いが10箇所で、ブドウ糖グループの間違いが六箇所の場合、改善度は四〇パーセントとなります。

 

 この実験で、脳は単に“甘いもの”ではなく、ブドウ糖が必要なことが分かります。 また、脳を非常によく使った後では、血糖値が下がることも知られています。

 

 ブドウ糖のもう一つの作用は、精神の安定、満足感です。ブドウ糖が増えて、インスリンの量が増えるということは、脳内物質のセロトニンを増やすことにつながります。セロトニンは精神安定物質です。

 

 したがってブドウ糖を摂取する、つまり甘いものを食べると、インスリンが満腹を感じさせると同時に気分がおちついて、無理に食べようというような気持ちにならないということになります。空腹のときと正反対の状態で寸ね。

 

 ちなみに糖尿病では血中にブドウ糖が豊富ですが、記憶力が増すということはありません。糖半句はブドウ糖を利用できない病気だからです。飲ん兵衛のブドウ糖

 

 ところで「自分は甘いものなど好きでない」とか「自分はアルコール派」だという人がいます。このような人のブドウ糖獲得作戦はどのようになっているのでしょうか。

 

 甘いものが好きでない人は、たいてい柿の種やせんべい、ポテトチップス、鮨などが好きだと思います。じつはこれらは炭水化物、すなわちブドウ糖の宝庫です。

 

 では酒飲みはどうでしょうか。酒飲みの中には塩を肴に飲むなどという人もいます。そんな人はブドウ糖不足ではないのでしょうか。

 

 じつは、アルコールは細胞内でピルビン酸になり、さらに酸化されてエネルギーを出します。これは、ブドウ糖の分解が途中から始まったような状態になっているのです。するとブドウ糖は使われずにすむので、その分が脳に回ります。

 

 もちろん、塩が肴ではブドウ糖の量が足りないので、このような人は肝臓を壊します。肝臓は、ブドウ糖があるとアルコールの分解が進むのですが、ブドウ糖がないとアルコールに障害されやすいのです。このため、酒を飲むときには、げいものをいっしょに摂るように勧められています。

 

 しかし、砂糖などの甘いものは、昔は非常に高価なものでした。イギリスの東インド会社は、砂糖とお茶で莫大な富を築きました。また、中南米の植民地は、砂糖の供給を確保するためのものでした。

 

 庶民は砂糖が手に入らなかったので、甘いもの以外でブドウ糖を摂り、脳に供給する習慣ができたとも考えられます。それが、せんべいのような「おつまみ」です。

『脳の栄養失調』:高田明和著より