窒素化合物の排泄

 

 二人栄養素である蛋白質・糖質・脂肪のうち、糖質と脂質は二酸化炭素と水に分解され、気体と水蒸気として肺から排泄できます。しかし蛋白質だけは窒素を含んでいるため気体として排泄できず、肺以外から排泄する必要があります。哺乳類は窒素を含んだ老廃物の排泄ルートとして、腎臓-尿を選んだのです。

 

 窒素を含んだ最終的な老廃物として、三つの物質があります。その一つはアンモニアで、分子量も小さく水に溶けやすく生物にとって扱いに便利なようにみえますが、毒性が強いという欠点があります。アンモニアを最終の老廃物としているのは硬骨魚類(骨格が主として硬骨からなる魚。魚類の人部分を占める)のみで、魚類ではえらからアンモニアが水中に拡散していくのでアンモニアの毒性から免れることができます。

 

 爬虫類や鳥類は総排泄腔(鳥類や単孔類において後腸、膀胱、生殖管が共通に開口する腔所)(ステッドマン)から尿酸として排泄します。尿酸分子は六角形と五角形からなる環状構造を持ち、細胞内にある核酸の構成成分であるプリン誘導体といくらも違わない化学構造式です。尿酸は水に溶けにくく、すぐに沈殿物を作りますが、毒性が低い点が最終産物となった理由と考えられています。

 

 哺乳類は尿酸を尿細管から大量に再吸収しています。排泄されるのは濾過された尿酸の二〇%にすぎません。尿酸をさらに分解し、利用することはできません。尿酸の再吸収は何のために行なっているのかは今のところわかっていません。尿酸には強い抗酸化作用があり、これが病気の発症を抑えている可能性があります。酸化は動脈硬化を進行させ、がんの発症を促し、老化を進行させるといわれています。しかしこ家族性低尿酸血症」という、尿細管での尿酸の再吸収が阻害され、血清尿酸濃度が幼時から低い病気の人が、がんになりやすかったり、短命腎臓のはたらきであったりという報告はありません。尿酸の積極的な再吸収の意味は今のところわかりません。

 

 哺乳類の最終窒素化合物は尿素です。尿素は水に溶けやすく、毒性も低い物質です。尿素は老廃物だからただ排泄してしまうだけかというとそうではなく、哺乳類の生存に大切な「尿の濃縮」に役立っています。

 

 哺乳類では腎臓の髄質がよく発達しています。髄質の浸透圧はほかの組織の五倍にも達していて、この高い浸透圧は組織内の高濃度のナトリウムと尿素で保たれています。

 

 この高浸透圧、ヘッレのループ、集合管からなる尿細管の走行、尿細管に沿って走る直血管が尿の濃縮力維持に大切といわれています。

 

 腎臓の髄質の発達、尿の濃縮力は哺乳類・鳥類という恒温動物だけにみられ、高い尿濃縮力による水の保持、その水の汗腺からの蒸発が体温を高い温度で一定に保つために重要なのではないかといわれています。

 

 尿素が腎臓の髄質に高濃度で存在することにより、恒温動物の地上での活発な活動は支えられているのです。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より