腹膜透析

 

 腹膜透析では、まず腹腔内にカテーテルを留置し、このカテーテルから透析液をニリットル注入して、六時間そのままに置いてから排液し、再び透析液を注入する操作をくり返します。

 

 カテーテル留置は子術室で局所麻酔下に行ないます。このとき入院するのが普通で、入院中に患者さんは透析液の注入法と排液法を習得し、留置から四日後に抜糸すれば退院できます。退院後は自宅で透析液の注人、排液をくり返し、ニリットルの液が溜められるように腹腔を広げます。

 

 手術や炎症により腹膜に癒着がある人では透析液がうまく入らないか、うまく排液できないので、腹膜透析の適応とはなりません。

 

 腹膜透析のなかでもっとも行なわれているのは「連続携行式腹膜透析」(CAPD)です。腹腔内にニリットルの透析液を約六時間貯留後に排液します。この透析液の貯留1排液を一日に四回行ないます。

 

 腹膜の面積は約1.6平方メートルです。腹膜は血液透析に用いる透析器の膜と同じ半透膜の性質を持っています。拡散の原理で、腎不全で貯留した老廃物やカリウム、リンなどはこれらを含まない透析液中に移行し、血中の濃度を下げることができます。また身体に貯留した水は、透析液の浸透圧をブドウ糖で高くしておけば透析液に移行させることができます。約五時間の透析液貯留で、血液中の老廃物などの濃度は下がり、透析液中の濃度は上昇し、血液中と同じ濃度になるので、溜めておいた透析液を排液として外部に排出し、新しい透析液を注入します。

 

 CAPDでは、透析液バッグの交換が一日四回とかなり頻繁ですが、「自動腹膜透析」(APD)ではこのバッグ交換が必要ありません。「自動腹膜濯流装置」(サイクラー)を用い、患者さんが家庭で就寝中に、自動的に透析液の交換を行なうことが可能です。この方法ですと、日中は腹腔に水を抱えた状態にならず、日中の勤務が必要な人に向いています。

 

 日本では腹膜透析を受けている患者さんは二六万人の透析患者のうち三・五%で、欧米の一〇%以上に比し、きわめて少ない状態です。この理由は「血液透析か腹膜透析か」の項で述べます。

 

 腹膜透析では以下に述べる二つが血液透析にない不利な点です。このことは腹膜透析か血液透析かのどちらかを選択するとき、患者さんにかならず伝えなければなりません。

 

 一つは、腹膜の機能低下です。腹膜の機能は腹膜透析を続けるとしだいに低下し、五年間

で五〇%の患者さんが機能低下のため、血液透析に切り替えなければなりません。

 

 血液透析では透析用コイルは透析ごとに新しいものに交換するのに、腹膜透析では腹膜という生きた膜をずっと使い続けなければなりませんから、機能低下はやむを得ない点もあります。

 

 腹膜の機能は、透析液のブドウ糖の濃度が高いほど低下しやすいものです。したがって、尿中に多量の蛋白が排泄され、浮腫が出やすい人や、飲水の制限ができない人では水除去のために透析液のブドウ糖濃度を高くしなければならず、腹膜の機能低下が速く進行しま子。最近、ブドウ糖でなくコーンスターチを原料とするイコデキストリンで透析液の浸透圧を高くする方法が間発されました。この方法により、機能低下が遅くなることが期待されています。

 

 もう一つの不利な点は、細菌による腹膜炎です。腹膜炎は透析液のバッグ交換の際の細菌の混入によって起こるので、バッグのつなぎ目の消毒方法が工夫されていま子。紫外線や加熱で滅菌する方法、ヨード消毒剤のキットで消毒する方法などがあります。

 

 腹膜炎により、腹膜機能は大きく低下します。腹膜炎を起こさなければ腹膜機能の低下は防ぐことができ、最長一六年間腹膜透析を続けた記録があります。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より