薬の適合性と血流の関係

 

 一九九四年、五十三歳のとき、クモ膜下出血で倒れた一子さん(女性)の例をご紹介しよう。量販店に勤める一子さんは、明日が棚おろしの日だというので、気ぜわしかった。冬のとても寒い日で、自宅から駅までのオートバイの通動が、いつにも増してつらかった。疲れて家にたどり着いたとき、吐きけがしてうずくまった。その後、頭全体が表現しようのない、とんでもない痛みにおそわれた。そのときから三ヵ月間、意識がなかった。診断は脳動脈破裂によるクモ膜下出血。また、小脳に血管攣縮(血管の痙攣)による故障がみられた。七ヵ月間の入院生活を余儀なくされた。幸い、いのちはとりとめたものの、視野狭窄弱視の後遺症が残った。

 

  一子さんの血液の流れを測定してみた。まず、一度め。このときは、朝、薬を飲んでから二時間半たっていた。結果は四五・一秒。血液は順調に流れている。一時間おいて、また採血して測定した。薬の服用後、三時間半たっている。結果は血液がトロトロ状態で完全に流路をふさぎ、測定不能だった。血小板の凝集が激しかった。もう一度、採血し、測定してみた。すると三度めも、血小板の凝集でほとんど流れない状態だったが測定は可能で、通過時間は一〇八・八秒だった。

 

   これほど急激な血液の変化は何によるものだろう。

 

   空腹になると、アドレナリンが分泌され、グリコーゲンや脂肪の分解を進める。また、アドレナリンが血小板の凝集能を咼める。調査の中で、空腹時のほうが通常時よりも、血液の流れが遅くなる人たちも見受けられた。これは、アドレナリンの影響であると思われる。精神的な緊張によるストレスがかかれば、アドレナリンはさらに増える。しかし、ここで一子さんの結果で注目したい点は、薬の服用時間、または、その適応性ないし適量と血液の流れについてだ。

 

   一子さんの場合、薬を服用してから三時間半後には、その血中の量が落ちてきているとみることができる。薬の血中レベルの低下は、複雑なリバウンドを招くことも考えられる。内分泌系も影響を受けると予想される。それらのことが、血小板や白血球に影響して、血液の流れがきわめて大きく変わる可能性も十分に推測できるのだ。。

 

 薬には必ず、副作用が伴う。その副作用には薬が切れたときのリバウンドも含まれる。さらに繰り返して測定してみる必要があるが、一子さんが飲んでいる薬はあまり一子さんに合っていないように私には思えるのだ。

 

 薬を服用してから、経時的に、血液の流れ方を調べていけば、薬の効果がはっきりと本人に自覚できるだろう。また、その副作用もみえるであろう。薬を服用していても、はっきりと自覚的にその好転が感じられない場合は、途中で、患者がなんとなくやめてしまう場合も多い。特に、降圧薬ではそうした場合が多い。

 

 もし、血液の流れにも注目すれば、その人の薬の適合性を知ることができるのではないか。さらに、薬を服用する効果や重要性、副作用の程度、途中でやめてしまう危険性などを自覚するのに、血液の流れ方の測定は役立つだろう。

 

 現在、さまざまな種類の降圧薬が出ている。それぞれの作用の違いから、利尿薬、交感神経抑制薬、血管拡張薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の四つのグループに分けることができる。利尿薬=腎臓に働いて尿の量を増やす。それによって血液の量を減らし、血圧上昇をおさ

 

 ②交感神経抑制薬=血管を収縮させる交感神経の働きをおさえる。それによって、末梢血管を拡張させる、また、心拍出量を減らすことで血圧を下げる。

 

  血管拡張薬=動脈に直接働いて血管を拡張し、血圧を下げる。血管の平滑筋が収縮をおこすための最初のステップであるカルシウムイオンの流入をブロックして、血管の収縮を防ぐ。

 

  アンジオテンシン変換酵素阻害薬h血圧を上げる物質の一つ、アンジオテンシンHをつくる酵素の働きを阻害して血圧を下げる。

 

   高血圧一つをとっても、その特徴で分けてもこれだけの薬の選択肢かおる。これらの薬のどれをどれくらい処方するかといったら、その判断はかなり難しくなるだろう。個人差もあり、副作用の出方もさまざまだ。

 

   現在は、高血圧に対して服用する薬の量は、ほとんど一律に決められている。使ってみて副作用があれば、薬そのものを変更したり、量を減らしたりする。でも、患者本人が副作用として体の変化を感じえなければ、また感じていても直接医師にそうした訴えをしなければ、副作用があるか、ないかはわからない。

 

   また、高血圧の場含、薬をいつから飲みはじめるかは、患者にとっては重大な関心事だ。

 

  WHOと国際高血圧学会では、軽症高血圧の治療についてのガイドラインを出している。

 

 しかし、繰り返すが、重要なのは血液の流動性の低下と血圧の上昇とのあいだの悪循環を絶つことだ。降圧薬は対症療法であり、一生飲み続ける必要が出てくるのも、この悪循環を絶つ効果をもっていないからだろう。血液の流れ方に作用する新しい高血圧の薬の間発が望まれる。