血管の再生と新生

 血管は動脈、静脈、毛細血管があり、また体の部位によって大さも様々だ。それらがどのようにコントロールされて形成されているのか、よく分かっていない。血管内皮増殖因子(VEGF)などのエフリン、ニューロピンなどの多くのサイトカイン(細胞が作るたんぱく質のシグナル物質)が同定され、解明が進んでいるが血管を再生するまでには至っていない。

 

 これに対して、血管新生という言葉がある。血管新生は、毛細血管が分岐したり伸長したりしてできる現象のことをさす。ケガや病気で組織が損傷すると、血管新生が起きる。たとえば、女性では毎月の月経前に子宵内膜が形成され、妊娠時には胎盤が形成される。この時に血管新生が起きている。

 

 正常な血管新生は、促進因子と抑制因子のバランス上に成り立っている。先のvEGFは促進因子、トロンボスポンジンなどが抑制因子であることが分かってきた。これらの因子のバランスが崩れると、必要の部位で血管が新生してしまう。ガンが成長するのが、血管新生ということまで分かっており、新医薬品がこの血管新生をターゲットに研究されている。

 

 血管新生阻害剤は、一般には抗ガン剤よりも毒性が低く安全性が高い。しかし、阻害剤だけで効果的にガンを叩けるわけでもなく、従来の手術や放射線療法・化学療法との併用になるようだ。現在米国で臨床試験に入っているのは、みな血管新生m害剤だ。

 

 ジェネンテック社は、vEGFを抑制するモノクローナル抗体で、対象は乳ガンと大腸ガン。ロシュ、シェリング社は、vEGFを抑制するたんぱく質で、対象は様々な腫瘍。スージェン社もvEGFを抑制する合成化合物で、対象は大腸ガン。

 

 日本では、大阪大学医学部の森下竜一助教授が、「HGF遺伝子」を用いて血管新生の遺伝子治療に取り組んでいる。HGFは、肝細胞増殖因子として発見されたが、ほとんどの臓器細胞の壊死を防ぐ効果が分かってきた。肝硬変などの肝臓病、腎臓病、肺疾患、消化器病、循環器病などに有効だとされる。

 

 森下助教授らの治療法は、HGF遺伝子を入れたプラスミドDNAというベクター(運び屋)を直接、足の静脈に何力所か注射するだけのもの。HGFが血管の内皮を増やし、血管の新生を誘導するという。血管が増えると末梢神経にも血が通って、壊死を防ぐというわけだ。森下助教授らは、閉塞性動脈症を手がけているが、心筋梗塞などの循環器系の治療にも乗り出す。