社会保障

社会保障のあり方を考えるにあたっては、それらの性格を考慮に入れる必要があります。その主なものとして、次の6つを上げることができます。
まず第一に挙げられるのは、すべての国民を対象とし貧困者にもすべての権利を守るという普遍主義の性格が強いということです。公的年金医療保険はもとより、福祉もその正確が強いものになってきています。副詞はかつての貧困的施策として特徴付けられていたのですが、今日ではその種の施策は小さなウェイトを占めているに過ぎません。その反面、介護保険の導入により在宅サービスや老人保健施策などの施策のウェイトが増大してきています。すなわち、今日では保障の対象が、高齢化などを踏まえ、国民すべての生活リスクに普遍化していると言えます。特に、今後、構造改革のもとで規制緩和や雇用調整が進むような情勢では、社会保障の下支えが欠かせないと言えるでしょう。
第二に、生活保障の性格が強いものになっています。社会保障の基本目的は最低生活の保障にあるとされていますが、実際にはそれを上回る従前の生活水準の維持の保障に力点が置かれています。所得比例型の公的年金がその性格を備えている代表です。福祉サービスについても、同じことが言えます。医療についても同じことが目標とされていますが。財の性質が違います。
第三に、社会保障給付からの受益について見ると、私的な性格が強まってきています。ここでいう私的とは、行った施策の便益が個々の受給者に帰属することを意味し、経済学でいう私的財と同義です。普遍主義の公的年金や医療保障からの受益は、その大部分が受給者やその家族に帰属するとみてよいでしょう。福祉サービスも、全体としてみると、やはり私的財の性格が強いといえるでしょう。
なお、サービスそれ自体は私的財の性格が強いものであっても、教育の考え方に基づく結果については公共財の要素が認められます。それによって当事者の生活が改善されたりするならば、社会の第三者の慈善心が満たされるといった外部経済が生じます。その意味で、こういった施策の便益には、公共財の要素が含まれていると言えます。しかし、今日の社会保障においては、その種の給付が全体に占める比重は小さなものに過ぎません。
第四は、所得移転の性格や方向が多様なことです。所得再分配の性格を持つため、中・高所得者から低所得者への垂直的移転、中間層の間での水平的移転、非老齢者世代から老齢者世代への世代間移転、健康なグループから病弱なグループへの移転、就業者から失業者への移転などがその主なものとして挙げられます。所得移転のうち、非老齢者聖代から老齢者世代への世代間移転の要素については、本来の意味である中・高所得者から低所得者層への垂直的移転に反する可能性があると指摘する向きもあります。
第五に、費用負担面について見ると、受給者と費用負担者とがオーバーラップする度合いが著しく大きくナテきています。普遍主義の施策には社会保険料や各種の利用者負担が伴うのが通例です。そのため、同一の個人が受給者と費用負担者との二重性を持つことになります。そうした制度上の直接的な負担の他に租税による間接的な負担をも考慮に入れるならば、その二重性の度合いは一段と大きくなります。これは、今後高齢者も医療保険を負担するといった形で表れていくでしょう。
第六に、社会保障は高齢者や女性などに働く場を用意することにより、労働力の確保に寄与したり労働力不足傾向を緩和したり、高齢者による医療・介護産業やバリアフリー施設などの産業育成のインセンティブとして働きます。ここは社会保障ケインズ的な施策としてとらえることもできる点です。これは、産業として成立するという側面があるので、うまく作動するためには、市場機能を使うことも必要です。