また、2002年からは、植松さんの発案で「四次元照射」にも取り組んでいる。四次元照射とは、三次元照射に動きを加えたもの。これまでの照射では、呼吸を止めてもらったり、浅く呼吸してもらったりしながらある範囲にがんが来たときに放射線をかけるなど工夫していたが、それでも患者が深い呼吸をした場合、最大6センチも照射位置が動いてしまう。そこで、呼吸に合わせてチェイサーががん病巣を追っていき、常に照射範囲の中心にがんを捉えるというしくみの装置を開発した。

 

 「いわば、飛んでいる鳥を望遠鏡で見ている場面を想像しかときに、鳥がどのような飛び方をしても常に望遠鏡の視野の中央にくるようにするというイメしシです。戦闘機のヤーダーが、常に標的を中心に狙っていることと同じですね」(福井さん)

 

 その結果、より治療精度が高くなり、さらに治療時間も4分の1~5分の1程度まで短くなったそうだ。患者も楽に治療を受けられる。

 

 現在、植松さんと福井さんは鹿児島県・UASオンコロジーセンターで四次元照射の治療をしている。「どうしても手術はイヤ」という患者がインターネットや記事などで二次元照射や四次元照射の情報を集めて、鹿児島に来るそうだ。ただし、四次元照射には健康保険は適用されない。

 

 

 

がん治療における放射線技師とは

 

 〈放射線治療医〉患者の病状に合わせて、どんな種類の放射線をどの範囲で、どのように当てるかについて放射線治療の計画を立てる。患者に治療耐画とその効果についてインフォームドコンセントを取った後、最終的に治療の方向性を決定づける。治療後は経過観察をする。

 

 〈放射線技師〉治療現場で医師の指示通り、安全に正確に照射できるよう遂行する。照射中の患者の容態にも気を配る。

 

 とくに、放射線技師がもっとも時間を費やし神経をとがらせるのは、照射前に装置が正確に動くかチェックしていく作業だという。放射線の干不ルギー量は正しいか、照射位置のずれは起こらないかなど、細かい事柄をひとつひとつ入念に確認する。治療の成功不成功は、装置の管理にかかってくるからだ。

 

 「もし、放射線を照射した位置とがんの場所がO・5~Iミリずれていたことで、治療後、がんの細胞増殖が確認されたら、それは治療の失敗です。絶対に許されません。このため、機械が正しく動いているか信用できるまで、何回も入念に精度測定を繰り返します」(福井さん)

 

 たとえば、放射線の干不ルギー量測定では、コンピュータにデータを打ち込んだ後、人間の代わりに模擬人体(人体と放射線の吸収・散乱が等しい物質でっくられている模型。ファントムと呼ばれる)をベッドに置き、照射実験を繰り返す。人体は臓器によって密度が異なるため、患部に合わせて干不ルギーの通り具合を計算しなければならない。技師としての知識が必要な場面である。患者の体の中で、放射線量がどのように分布しているかを把握していくことも重要だ。治療計画装置で分布計算するとともに、模擬人体を使って照射実験を繰り返し、より正確な把握に努める。

 

 さらに、治療中は機械を動かしながら、常に患者の容態に細心の注意を払う。技師はどんなことに配慮しているのか。

 

 「最近は患者さんが自ら情報を集め、治療に対して積極的に参加される方が多くなりました。とはいえ、やはり、がんになったことに対する不安や恐怖などを持っている方は多いですね。そんなときは、がんば治る可能性のあ・る病気なので、改善を期待して治療を続けるよう多くの情報を繰り返し伝えて、精神面をケアできるよう留意しています。また、患者さんがもっとも気になる放射線治療の副作用について、いまでも間違った情報が多いため、『この治療では、どのような障害の可能几があるか』など具体的ご説明して、患者さんの不安を取り去るように努めています」(塩田さん)

『がん闘病とコメディカル』福原麻希著より 定価780円