ものを言うのはWritten English 

 

しかし、ここでも一番ものを言うのは会話よりもWritten Englishなのである。ビジネスと言っても、夜店でうまいことを言ってものを買わせるといった営業をやっでいるわけではない。膨大な情報に基づき、これを駆使しながらビジネスを進めていくわけである。即時的に話す能力が不可欠のケースも大いにあるが、何と言っても(書かれた文書)にもとづいたやり取りが主体となる。そして最後の決め子は紙に書かれた契約である。

 

 私はかつて国際羊毛事務局というロンドンに本部があるウールのプロモーション機関で仕事をしていたことがある。日本支部のトップ(理事)の関根さんという方は、話すほうも書くほうも優れた英語の使い手であった。その関根さんが、英語に四苦八苦、とくに会話には日夜悩みまくっていたわれわれに、「ビジネスで結局決め手になるのはWritten Documentです。しゃべったものはなんの証拠能力にもなりません」と言ったことがあった。私は           「そうなのか!」と驚きとともに、その言葉にいたく感心したことを今でもよく覚えている。考えてみれば当たり前のことであるが、こういう正しいことを言ってくれる人はそうそう多いわけではない。いや、デキル人からは初めて聞いた言葉だと思う。そういえば、当時の思い出として印象に残っているのだが、アメリカやイギリスの連中は実にまめに会合のメモ、そして詳しい議事録を取る。彼らの書くことに対する執念は大変なものであったことを思い出す。

 

 技術系の場合には、英文の文献を読まなければならない度合は、営業・管理系よりもはるかに高い。われわれの時代でもそうであったが、インターネットの時代にはそれがより進むことになるだろう。最新技術の情報に子軽にアクセスできるようになるので、これをフォローしていないといけないからである。これも、話す英語よりも、読む英語であることは言うまでもない。

 

 このようにビジネスの世界において、英語の必要性が高まっていることは間違いない。しかしながら、すべてのビジネスマンにとって英語が必頂になっていると考えたらそれは見当外れである。一番高いレベルである、海外駐在員に求められる英語力(TOEIC七三〇点以上が目安)を実際に必要とする社員は、多くてI〇%といったところであろう。そこまでは行かなくても、五〇〇~六〇〇点といったレベルが要求される社員も三〇%くらいということになってくるかもしれない。ただ考えておかなければならないのは、日本の場合、専門固定型の仕事ではないので、いつ五〇〇~六〇〇点、あるいは七三〇点を必要とする仕事をやらなければならないハメになるかわからない、ということはある。そうしたことも考慮に入れて英語力を備えておく必要があるだろう。

 

文科省が英語を壊す:茂木弘道著より