BMM


 BMM(ベンペルダ・マイクロポーラス・メンブレン)は、タタミイワシをぎっしりとかさねたようなものだから、層一つだけとって、電子顕微鏡で網の目を見ると、ところどころ大きな目、つまり大きなポアもあったりする。そういうポアは各層にあるわけだから、これではウイルスがポアからポアヘとすりぬけてしまいそうだ。しかし、これらのポアは、一〇〇層そろえて千枚通しであけた孔ではないから、貫通などということはありえない。各層のポアのほとんどはウイルスより小さいので、どこかにひっかかってしまうのである。もっとわかりやすくいえば、BMMはアリの巣なのだ。ところどころに産卵室や食糧貯蔵室など大きな空間はあるが、それらを結ぶ道ぱきわめて細い。どこかの空間にウイルスが入りこんでも、次の空間へは行けないのである。かりに一部のウイルスが、運よく突破して次空間へ行ったとしても、そこから先はまた難関の連続になるだけなのだ。

 従来の中空糸の膜は、BMMとちがい、たった一層からなるものだった。したがってウイルスは膜の表面で阻止されるので、結果的に目ヅマリということもある。それに一つでも大きいポアがあれば、すべての努力はアウトだ。

 物質の精製というのは、たとえ一度に100パーセントを達成できなくとも、何度もくりかえすことで完全精製は可能になる。BMMは、最初の膜で八五パーセントのエイズ・ウイルスは除去できる。したがって、一〇〇層のうちだいたい二〇層目くらいで、ほぼ完全除去できる。

 BMMの開発は、じつぱ最初からエイズ・ウイルスをターゲットにしたものではなかった。繊維加工研究を担当していた技術者たちが、膜の基礎研究をしているときに発見したものである。それを社内で発表したところ、これならエイズ・ウイルスの除去に最適ではないか、という声が出てからだ。以来、BMMの研究は、ウイルス除去にむかって急ピッチにすすみ、現在ではポアのサイズを二〇ナノから五〇ナノまで設定できるようになった。つまりエイズどころか、その半分以下の四ニナノしかないB型肝炎ウイルスさえも、完全に除去できるようになったのである。

 ぱじめに基礎研究ありき。新技術の開発にはいろんなプロセスがあるものだ。