熱ショック蛋白と自己免疫疾患

医学の歴史上、長い間、熱は炎症の重要な徴候と考えられてきました。他方、熱を生ずることは病気の治療に導く道とも考えられてきました。発熱することは身体内で熱ショック蛋白を生成する自然の方法です。熱は必要なときは免疫反応性の刺激となり、熱ショック蛋白の生成を通じて免疫過程の生理的な調節の手段となっています。
生態の種類を問わず広く熱ショック蛋白は類似しているので、熱ショック蛋白に対する免疫応答が、自己抗体の誘導に関与すると考えられます。病原微生物は感染症を起こすとともに、宿主と共通の熱ショック蛋白の抗原性決定基に対する液性および細胞性免疫反応が起こり、それが宿主の熱ショック蛋白の抗原性決定基に作用する結果として自己免疫疾患を誘発する可能性があります。リウマチ性関節炎や結果空の患者には、ヒトの70K熱ショック蛋白に対する抗体及び抗酸菌の65K熱ショック蛋白に対する抗体が検出されます。熱で殺した結核菌をミネラルオイルに浮遊させたもの、フロイントの完全アジュバントと呼ばれるものを皮内注射すると、関節炎が起こります。これをアジュバント関節炎といいます。これは、結核菌の熱ショック蛋白を認識したTリンパ液が自己の関節を交差認識するために生じたものと考えられています。ヒトの慢性関節リウマチについても同様のことが考えられ、事実よく似ていますが、同じかどうかはわかりません。
骨関節炎の軟骨から分離したヒト軟骨細胞は、摂氏37度で90Kと70Kの熱ショック蛋白を産生しました。しかも、病状の程度と熱ショック蛋白の産生の程度には相関性がありました。関節炎は炎症性疾患であるとともに自己免疫疾患であって、炎症の過程で熱ショック蛋白が体内で発現されていることを示唆します。
さらに他の微生物の熱ショック蛋白が関節炎に関与している可能性も否定できません。