食べさせるための脳の戦術

 

 このように満腹感や空腹感は、炭水化物匸フドウ糖)、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)の摂取量で決まります。そしておいしいかどうかは、その食べ物に必要な栄養分が含まれているかどうかであり、満腹かどうかは、それが子分に摂取できたかどうかによるわけです。

 

 私たちの脳は、まずいものをいくら食べても満足しません。まずいものには必要な栄養分が含まれていないと判断するからです。そうでなくては、体や脳に必要なものを十分に摂取できないからです。

 

 脳は、さらに巧みな戦術を用いています。感情を司る物質のセロトニンを、同時に食欲の調節にも用いているのです。セロトニンが少ないと、精神的に不安定になり暴力的になります。何としても食物を獲得しようという気持ちにさせるのです。

 

 もしこの感情の什組みが反対だったら、つまりセロトニンが減った場合は気持ちが落ち着いて、行動的にならなかったらどうでしょう。狩猟などの危険なことはとてもできないでしょう。ましてや、周辺の人たちを襲って食べ物を獲得しようなどとは思わないでしょう。

 

 気持ちが闘争的になり向こう見ずになるのは、食料を得るために狩猟や戦いという危険な行為をする上で必要です。単に、空腹感をもたせることだけが食欲調節物質の役割ではありません。同時に、食べるために必要な行動を起こさせることも、食欲を満たすためには欠かせません。

 

 こうして見ていくと、自然の巧みな仕組みに驚かざるを得ないのです。

『脳の栄養失調』:高田明和著より