病気は糸球体から

 

 腎臓の病気の多くは糸球体から始まると考えられています。たとえばlgA腎症、膜性腎症など、糸球体に生じた組織変化で病名がつけられているものが多いのです。

 

 しかし病気が進行すると問質の変化も大きくなっていき、さらに進行すると糸球体に起こった元の病気が何だったかわからないようになります。

 

 病気の始まりは糸球体だとしても、同質の変化もすぐに始まり、糸球体と間質の両方の変化で病気が進行していくと思われます。

 

 腎臓はあとで述べるように大変な仕事をしていますが、寡黙で控えめな臓器で、持ち主にその存在を意識されることがまずありません。

 

 病気になってもほとんど症状がなく、腎臓のある高さの背中側に痛みが生しるのは腎盂腎炎という腎臓の感染症で腎臓が腫れた場合と、腎結石による疝痛(波状にくる、さしこむような痛み)の場合だけです。感染症による痛みは腎臓を包んでいる線維筋膜が緊張するために生じ、鈍い痛みで、背中を拳で叩くと痛みがさらに増します。

 

 腎結石による疝痛は、人間が経験するもっとも強い痛みといわれ、痛みのために顔面は蒼

白となり、血圧が下がり、立っていられず床を転げ回るはどのことがあります。

 

 浮腫は腎臓病の代衣的な症状と、一般に思われています。一晩で生じるような、強い令身の浮腫は微小変化群ネフローゼという腎臓病による典型的な浮腫ですが、これはそう多く見かけるものではありません。外来での浮腫で一番多いものは女性のみにみられるかなお不明な特発性浮腫で、二番めが心臓のポンプ作用が哀えた心不全によるもの、腎臓病によるものは三番めです。

 

 腎臓の機能がしだいに下がっていく慢性腎不全でも痛みが生じると思っている人がいますが痛みなどの自覚症状はほとんどありません。

 

 尿の検査、血液の検査を一切受けずに何年も過ごしたまま行なった検査で高度の慢性腎不全が見つかることがあります。このとき患者さんが自覚する症状は動悸や異常な疲労感で、これはすべて腎不全に伴なう強い貧血による症状なのです。

 

 心臓や肺、腸といった臓器はその形や内容物からそのはたらきについてある程度見当がつきます。これに対して腎臓のはたらきが何なのかは、昔の人にはわかりにくかったらしく、血液を濾過する濾過機能や老廃物の排泄機能を思わせる記述は背の医書にはありません。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より