二四時間蓄尿の意義

 

自宅での二四時間蓄尿を行なうと、クレアチニンリアランス、蛋白摂取量、食塩摂取量、リン排泄量について知ることができます。適当な間隔で蓄尿によるモニタリングを行ないながら食事療法を指導することで、うまくいけば三回目の診察日にはほぼ正しい食事療法に到達できます。

 

 このように食事療法に欠かせない二四時問蓄尿ですが、それが行なわれていた医療機関は10%にも満たず、行なわれていたとしても「時々」とか「六か月に一度」程度が多く、食事内容を正しい方向に持っていくには不十分です。

 

 私のもとには常時四〇〇人前後の保存期慢性腎不全の患者さんが通院しています。ほとんどすべての人が二~八週おきに二四時間蓄尿による検査を行なっています。蓄尿から得られたデータはその日のうちに「腎臓病手帳」に医療側が記入し、現在の食事内容が患者さんにわかるという利点があるので、この点をわかってもらえれば蓄尿を嫌がる患者さんはほとんどいません。

 

 もちろん自宅で蓄尿を行なうことは患者さんにとってわずらわしいことです。それを行なう日は近くへの短時間の外出はできますが、それ以外は一日中自宅にいなくてはなりません。

 

 また精度にも問題があります。蓄尿を行なうには排尿のたびに尿を紙コップにとり尿バッグにあけていくのですが、尿のとり忘れがあったり、一部の尿をこぼしてしまうこともあります。さらに五〇歳以上になると、膀胱から尿が完全に排泄されない、「残尿」も生じるようになります。

 

 蓄尿での「尿量」の項目は、クリアランスを計算する際に重要ですが、尿を集める過程でこのような誤差を生みやすいという欠点があります。

 

 そこで朝一番の尿(早朝尿)の一部を試験管にとり、医療機関に患者さんが持参し、それを分析することで代用できないかという試みがあります。毎日の排泄量が個人でいつも一定な物質(補正物質)があれば、たとえば尿蛋白排池量を知りたいときは、尿蛋白の澄度、補正物質の濃度がわかれば一日の尿蛋白排泄量を推定することができます。糖尿病の腎合併症をみるための尿蛋白排泄量は尿クレアチニン濃度との比で補正する方法が一般的ですっ日ごとの尿クレアチニン排泄量はほとんど変化しないので、補正のための標準物質として適しています。

 

 しかし保存期慢性賢不全では低蛋白食療法が行なわれることが多く、この低蛋白食療法が行きすぎて過度の蛋白制限となっていると、尿クレアチニン排泄量はただちに減少してしまうため、「いつも排泄量が一定である」という補正のための標準物質の条件から外れてしまいます。このため、わずらわしく誤差も入りやすい方法ですが、二四時間蓄尿は保存期慢性腎不全の診療に欠かすことができないと思います。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より