腎不全保存療法を普及させるには

 

 ところで、このような患者さんに歓迎される治療法が広がっていかない理由は何でしょうか。一回当たりの診察時間、一回当たりの医療費を求めてみると、ほかの高血圧、糖尿病、慢性肝炎などの内科診療の場合とそう違いませんでした。しかしこの結果は、診察ブースごとに医療秘書がつき、腎臓病手帳ヘデータを記入してくれたり、蛋白摂取量などの計算は不要になるよう、中央検査部のコンピュータで計算した結果を外来端末で見られるようにするなど、基盤の整備を進めて得られたものです。そのような整備が行なわれていないで計算などの手間をすべて外来主治医が行なわなければならない状況ではかなり煩雑で時間がかかる診療となり、「そこまではやっていられない」となってしまいます。

 

 腎不全保存療法として私が主治医に行なってもらいたい事項は、

 

 (1)腎臓病手帳のようなものを用意し、一定の検査項目を記入し、それを患者さんに持たせる方式をとること

 

 (2)自宅で二四時間蓄尿を最低限二か月に一川行い、クレアチニンリアランス、蛋白摂取量、食塩摂取量、尿蛋白排泄量などを求め手帳に記入すること

 

 (3)クレアチニンなどの血液化学のデータ、蓄尿から得られたデータをもとに総合的に病状を説明し、いま患者さんが行なうことは何かを指導すること(指導は看護師・栄養士に肩代わりしてもらってもよい)の三点があります(このような診療上の事項を満足している医療機関はそう多くはありません。巻末に事項を満たしている医療機関のリストを掲げます。

 

 ところで腎不全保存療法を普及させるには、経済誘導しかないというのが私の考えです。

 

 ここにあげたような事項を満足している診療に、医療費を加算するのです。これらの事項は私の考えで、日本腎臓学会等で将来、必要事項を決めてもらいます。診療ごとに何がしかの医療費が加算されれば速やかに令国へ普及していくと思います。加算される額は一か月当たり一万円程度は欲しいところです。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より