血液透析

 

 血液透析は四時間ずつ週に二回行ないます。これによりクレアチニンリアランスでいうと六%程度の腎機能を保つことができます。

 

 毎分二〇〇ミリリットルの量の血液を透析器に導く必要があるので、前腕の動脈と静脈の側面に孔をあけ、二つの孔を縫いあわせ動脈血が静脈に流れこむようにします。子術後二週間ほどで静脈は動脈の高い圧により拡張し、「静脈の動脈化」が起こります。こうして造設した「内シャント」に穿刺することで、大量の血液をとり出せるのです。

 

 透析療法を受ける日は、勤務を休んでしまうのが普通です。透析を午後五時以降の勤務時間外や深夜帯に行なう施設もありますが、そうなると施設のスタッフの三交代制が必要となり、コストがかかるため限られた数の施設しかありません。二〇〇四年の夜間透析施設の比率は一七・二%でした。

 

 血液透析を始める場合、人院するのが普通です。これは血液透析開始直後には激しい頭痛や吐き気を伴なう「不均衝症候群」が起こりやすいためです。この症候群は脳・脊髄が特殊な膜で囲まれているため、透析開始時に全身に貯留した尿素などの物質の濃度の低下速度が脳・脊髄では他の組織より遅れるためです。この症状は人によってはかなり強く、血液透析を間始してから二日以上の間、ほとんど歩くこともできない人もいます。この症候群以外にも血圧の低下や貯留していた体液量の減少の身体への影響も大きく、血液透析を開始してから退院まで短くとも二週間は必要とします。 血液透析の回路は静脈への点滴注射のための回路などに比べてはるかに複雑です。透析間始までに四回の回路の接続が必要です。また、透析開始時の血管への「穿刺」、終了時の「抜去」、透析用コイル中の血液を完全に体内に戻す操作の「返血」など、一回の透析療法の工程の数は少なく数えても二二に上ります。工程の数が増すほど事故が生じる可能性は増えますから、病院内では一般病棟や手術室をはるかに上回る事故数が報告されるのが普通です。重篤な事故でもっとも多いのは穿刺した針が抜けてしまう「抜針事故」で、血管に刺して太い針が抜けるので大出血を来します。これは認知症などの患者さんが自分で針を抜いてしまう「自己抜去」によるものが大部分です。

 

 そこで透析施設では、とくに危機管理システムの整備が大切で、透析操作のマニュアル作成、小さな事故でも報告する、報告体制の充実が必要です。

『腎臓病の話』椎貝達夫著より