赤ワイン ビール・日本酒―少量の飲酒は心疾患を減らす

 

 「ワインは人類の歴史とともにある」といってもいいくらい、その歴史は古く、奥深い。ぞんなワインのここ数年のブームには驚くばかりだ。手ごろな値段でおしゃれな雰囲気を味わえるとあって、年齢を問わず、特に女性に人気がある。しかし、人気の秘密はなんといっても、赤ワインに含まれるポリフェノールの宣伝効果だろう。抗酸化物質であるポリフェノールがで心疾患を防  ぐ」という作用、肉と脂肪の摂取が多くても、フランス人には疾患が少ないというフレンチ・パラドックスが人気を畏づける決定打になっていることは想像にかたくない一ブドウにワイン酵母を加えて発酵させた醸造酒がワインだ。酵母はブドウの皮に存在してい  て、ブドウが腐れば自然にワインができる。赤ワインは赤や黒の皮のブドウの果実をつぶして果  実・果皮ともに発酵させたものであり、白ワインは緑の皮のブドウを原料にして、そのしぽり月  だけを発酵させたものだ。

 

   ワインには「老化を防ぐ」「ガンの予防」といった抗酸化作用があると、さかんにいわれてい  るが、それ以外の作用が赤ワインにはあるのだ。それが、血液の流れをよくする効果であり、お  そらく「老化を防ぐ」本当の理由に通じるものだろう。

 

   六十代の女性二人に、赤ワインを毎日一・五杆ずつ一週間続けて飲んでもらい、血液の流れ方  の変化を調べた。結果は次のとおりだ。

 

   女性1 飲酒前三八・七秒/一週間の飲酒後三五・〇秒

 

   女性2 飲酒前四二・二秒/一週間の飲酒後三五・一秒

 

   この結果から、ワインの飲酒によって血液の流れがよくなったと考えられる。ワインにかぎらずビールや日本酒などのアルコールは、血流改善効果がある。ワインと日本酒の場合は、血小板  の凝集性が弱められる結果、血液の流れがよくなると考えられる。それに対して、ビールは、赤第七章 血液をサラサラにする生活術血球の変形能を高めるようだ。ビールに利尿効果があることはよく知られている。水分摂取量が増えるということだけでなく、腎臓の血流がよくなり、利尿が進むという面もあると思われる。ビール党である私は、ビールがいちばんと思っている。

 

 ポリフェノールとは、植物の花弁や茎、皮などに含まれる色素で、植物自体の酸化を防ぐための物質だ。それを私たちが体内にとり込んでも、同じ抗酸化作用があらわれる。「細胞が活性酸素によって瘍つけられると、老化が進み、血管をかたくする」といわれている。活性酸素が血管をボロボロにするという説だ。しかし、活性酸素瘍害が進むのは、血液の流れが停止したあとに、再び開通したときであることを思い出してほしい。酸化瘍害を防ぐ決め手は、血液を流れやすくして、血流の一時停正がおこらないようにすることだ。血流改善作用がいちばんの抗酸化作用だと繰り返し強調したい。

 

 毎日少しのワインが、血液の流れをよくしていることがわかった。これはワインだけの効果なのか、それとも、アルコール全体についていえることなのか。

 

 ここに、男性三八六人の血液の流れやすさにおよぼす飲酒の影響についてのデータがある。

 

 一〇〇マイクロリットルの血液を血液流動性測定装置で測った結果だ。

 

 アルコールをまったく飲まない  六二・四秒

 

 ときどき少し飲む        五一・六秒

 

 ときどき大量に飲む       四七・七秒

 

 毎日少し飲む          四七・五秒

 

 毎日大量に飲む         五一・二秒

 

 もっとも血液の流れがよかったのは、「毎日少し飲む」人たちで、平均四七・五秒だった。次は、「ときどき大量に飲む」。意外に思われるかもしれないが、「まったく飲まない」人たちの流れはいちばん悪かった。少なくともこの結果からは、「毎日少し飲む」が血液の流れにとってよいことがわかる。血液の流れがよくなれば、血栓や動脈硬化がおこりにくくなる。

 

 ところで、アルコールがどのような作用をしているのか? そのメカニズムは次のように考えられる。少量のアルコールは、血小板の凝集能を弱め、血液を固まりにくくする。このため血栓ができにくい。また、適量であれば、HDL(善玉コレステロール)を上げ、LDL(悪玉コレステロール)を下げる。これが、動脈硬化を予防する方向に働く。

 

 しかし、「少量」「適量」がどれくらいなのか? 私たちの血流検査では、飲酒の量は自己申告であったので、本人がどれくらいを「適量」と思うかには差があると思われる。

 

 そこで、興味深いデータがある。飲酒量と死亡率の関係を世界的に調べたものだ。それによると、純アルコールにして、一日三〇ミリリットル以下で飲む群は、おおむね、まったく飲まない群よりも死亡率が低いという。この調査結果から、「アルコールの適量は一日三〇ミリリットルまで」が世界的な合意になってきている。ビールなら大びん一本、日本酒なら一合、ワインならグラス一杯、ウイスキーのシングルの水割りなら二杯以内だ。

 

 酒に呑まれてしまえば健康を害し、とんでもない失敗をやらかすことがある。しかし、「酒は百薬の長」と昔からいかれてきたように、アルコールと上手につきあうかぎりにおいては、血液をサラサラにする効果があるのだ。

 

 WHO(世界保健機関)などが「少量の飲酒であれば、虚血性心疾患になりにくい」という複数疫学調査の結果を出しているが、私たちの行った血流改善効果の結果は、こうした結果と通じるものだ。「血液の流れやすさ十という虚血性心疾患のメカニズムにかかかる指標で、疫学研究とよく一致する結果を出したのは、おそらく私たちが世界で初めてだと思う。血液の流動性を測定する多くの方法の中で、私たちの毛細血管モデルを用いる方法が、初めて信頼性、再現性、定量性を確立したと述べたが、私のこの主張を畏づけるものと理解してほしい。

菊池佑二著「血液をサラサラにする生活術」より