欧州の医薬品産業が強い理由は化学技術の歴史にある


欧州の医薬品産業のグローバルな競争力は、他の製造業やIT企業と比較して際立って高いです。医学の源をたどれば欧州に行き着くように、もともと欧州には医薬に対する長い歴史と知識の蓄積があります。医薬品の取り組みが速かったことと、化学をベースにした優れた合成技術を持っていたことで、欧州の医薬品産業は総合化学企業の一部として発展してきました。
例えば、世界で最もポピュラーな解熱鎮痛剤となったあるピリンは、1897年に西ドイツのバイエルが開発しました。その当時のバイエルの主力事業は染料で、アスピリンの有効成分であるサリチル酸の酢酸エステルは染料の合成に使われていました。ところが研究段階で偶然にも人体への解熱鎮痛作用が解明され、その後医薬品として急速に普及したと言われています。
欧州の総合化学企業は1980年代半ばから後半にかけて、事業再編による経営資源の分離や売却、欧州域内での再編の機運が高まっていました。これは1992年のEC(欧州共同体)市場統合へ向けた助走でもありました。
ECには当時12か国が加盟しており、現在のEUの母体となっています。当時の欧州の医薬品産業の流れは、欧州域内での足場を固めた上で米国と日本での事業拡大を目指すものでした。
1990年代に入り欧米の医薬品産業の再編は激化し、いくつかの大西洋をまたいだ企業買収も成立しました。ただし、残すべきものは残すというのが欧州の伝統と強かさです。
現在の医薬品産業は主要国に1社または2社のメガファーマが存在し、米国のメガファーマと対等に渡り合える競争力と規模を兼ね備えています。