第一三共


第一三共は2005年に業界3位の三共と同5位の第一製薬が経営統合で合意し、2007年4月に両社が合併して発足しました。循環器や代謝系、感染症などの主要な医家向け領域を手掛けるとともに、総合ヘルスケア起業を目指すためのOTCではアステラス製薬からゼファーマを買収しました。
そして2008年にインド最大の医薬品企業で、世界でも有数のジェネリックメーカーであるランバクシー・ラボラトリーズの発行済み株式の約65%を取得し経営傘下に収めました。
言うまでもなく第一三共のランバクシー・ラボラトリーズ買収の狙いはグルーバル・ジェネリックビジネスへの進出であり、ランバクシー・ラボラトリーズの新興国市場の拠点を活用することです。しかし出鼻を挫かれるようにランバクシー・ラボラトリーズの株価は急落し、買収発表から1年未満で3540億円に上るのれん一時償却額を特別損失として計上する事態となりました。社運を賭けた買収ではなかったことが救いとはいえ、第一三共経営判断が問われたことは間違いありません。
将来的にはランバクシー・ラボラトリーズの持つ高い化学合成技術や豊富な研究人員を、新薬の研究開発へ向けることも可能です。新薬の研究開発がハイリスク・ハイリターンであるのに対して、ジェネリックはローリスク・ローリターンのビジネスです。新薬とジェネリックOTCをバランス良く配置することで、第一三共の経営に安定感が増すことを期待したいです。
一方、日本の企業がランバクシー・ラボラトリーズのようなインドを代表する企業を傘下に収めるのは初めての事例です。第一三共にとってはランバクシーの経営管理で手腕が問われることになるでしょう。
2008年9月に、久々に大型新薬として期待される抗血小板剤エフィエントがFDAによって承認されました。エフィエントは急性冠症候群と呼ばれる、血管内に血栓が発生した患者の治療や再発防止の薬です。この薬を使うことで、将来に急性心筋梗塞脳卒中を発症するリスクを低減させることが可能となります。
第一三共はエフィエントのグローバル開発にあたってイーライ・リリーと共同開発で提携し、欧米で患者1万3000人を組み込んだ「TRITON TIMI-38」と称する大規模フェーズⅢ試験を実施しました。
その結果、エフィエントは競合品であるサノフィ・アベンティス/ブリストル・マイヤーズ・スクイプのプラビックスとの比較において、経皮的冠動脈形成術を受けた急性冠症候群患者の心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の発症を統計学有意性をもって19%減少させたことが明らかとなりました。
昨今、FDAの新薬承認の厳しさや不透明性に戸惑うことが多々ありますが、TRITONのような臨床的に優れる治験結果が評価され、エフィエントは正式承認されたと考えてよいでしょう。ちなみに、エフィエントの競合品プラビックスの2007年度売上高は、80億ドルを上回り世界最大の医薬品の一つです。
エフィエントに続く大型新薬として期待されるのが、抗凝固剤で抗Xa因子と呼ばれる「Du-176b」です。これもエフィエントと同じく血液に作用する循環器系の新薬です。
第一三共が同薬の開発に成功すると、エフィエントと同薬の良材を持つことで循環器系領域での存在感が強まるでしょう。ただし売り上げ面では物足りません。エフィエントの米国をはじめとする主要な海外市場における売上げは、イーライ・リリーが計上するためです。第一三共はあくまでも子・プロモーションん・パートナーの立場です。エフィエントをジェンプ台にして飛翔するためには同薬の成功が不可欠となります。
一方、国内事業には梃入れが必要です。現在、国内最大級のMR(医療情報担当者)2300名耐性を強いていますが、主要製品の売り上げ面からは活気が感じられません。確かに国内向けの製品は高脂血症治療剤メバロチンや合成抗菌剤クラビットなどピークを迎えた主力製品があることも事実ですが、国内でのエフィエントの承認発売は数年先になるため、当面は降圧剤オルメテックなどの自社開発品のほかに、キッセイ薬品工業からの導入品である排尿障害改善剤ユリーフなどの販売面の強化が急務でしょう
第一三共2010年問題への露出が最も小さいこともあり、2010年以降に業界最大手の武田薬品工業をキャッチアップする局面が訪れるかもしれません。そのためにも国内営業の強化が必要です。