ツムラ

ツムラはいわずと知れた漢方薬の大手ですが、ツムラ漢方薬は医療機関で処方される医療用漢方薬が中心です。国内の医療用の漢方薬市場は、これまで年率7%程度であった数量増が同8%強へ上昇し始めており、ツムラが唱えてきた漢方薬の第2の創業期とも言える需要拡大期に入りつつあります。
医療用の漢方薬は1976年に保険適用、いわゆる薬価基準収載をきっかけに急拡大しました。1991年のツムラ漢方薬の売上高は1000億円へ到達し、それにつれてツムラの業績も右肩上がりで成長しました。
漢方薬は安全で使いやすいという点が評価されていますが、安易に使われ過ぎていた面も否めないでしょう。当時、最もポピュラーな製品は食欲不振や慢性肝炎に効果がある小紫胡湯でした。
小紫胡湯は日本で使われていた漢方薬の約4分の1を占めていました。しかし1990年に小紫胡湯の間質性肺炎の副作用に関する報告が初めて出ると、その後インターフェロン製剤との併用による間質性肺炎の死亡例が相次ぎ、1994年にはインターフェロンとの併用禁忌、1996年には厚生省から緊急安全性情報が出されました。このような状況の下、小紫胡湯の売上げは急減し、ツムラの業績も急激に悪化し経営不振に陥りました。
こうしたなか、1995年に創業家一族の風間八左衛門社長が就任し、経営再建に向けて動き出しました。その当時のツムラは有利子負債1475億円を抱えて、待ったなしの状況に追い込まれていました。
そこから不採算子会社の整理やコスト削減など聖域なきリストラを行う一方、漢方薬の臨床効果を裏付けるために漢方医学の確立に向けて行動を開始しました。それが今日の「育薬」の成功の土台です。
ツムラの育薬とは、エビデンス(各種論文やデータ)を提供することで、大学病院・臨床研修指定病院で漢方薬を使っていない医師に、その有用性を理解してもらうことです。その後、一般病院や開業医への波及効果を狙う考えです。あたり前のコットと言えばそれまでですが、漢方薬の最大の弱点であったところです。
現在、ツムラは消化器系に作用する「六君子湯」と「大建中湯」、そして認知症などから併発する神経の高ぶりや不眠などの周辺症状の改善を促す「抑肝散」の3つの処方の育薬に取り組んでいます。この3処方の育薬によって、ツムラ漢方薬の売上げ全体の底上げにつながる相乗効果が期待されるわけです。こうした育薬の奏効によって、国内市場における漢方薬に対する需要は今後も堅調に伸びる見通しです。
ここで漢方薬の課題を挙げておきます。まずは国内の価格(薬価)維持です。漢方薬ジェネリック参入のリスクがない反面、新製品の投入が難しいため既存品だけが頼りです。
薬価改定が2年に1度の頻度で定期的に実施される状況下では、価格を維持し数量の伸びを着実に取り込むことが大切です。
漢方薬の国際化、いわゆる欧米での販売です。米国で大建中湯を手術後イレウス(腸閉塞)の適応症を対象に小規模のフェーズⅡ試験を行いました。まだまだ欧米での販売に漕ぎ着けるまでには長い行程ですが、海外で有用性の高い漢方薬を普及させる試みは続行すべきです。
課題とされてきたバスクリンなどの家庭用品事業の譲渡を2007年7月に発表しました。バスクリンというブランドには一定以上の価値があると思われますが、収益性の高い医療用漢方薬事業経営資源を投入することで、ツムラ企業価値は着実に高まっていくでしょう。