米国での新薬開発はハイリスク・ハイリターン

日本の新薬承認審査や新薬開発は、米国のFDAや市場環境の変化に多々影響を受けるといってよいでしょう。FDAが世界のスタンダードになっているわけではありませんが、米国が世界最大の医薬品市場である限り、FDAの存在は揺るがないでしょう。
米国で新薬を発売したければFDAからの承認取得が必須条件であり、そのためには米国で開発しなければならないからです。体力の劣る日本の医薬品企業が米国で新薬の単独開発を行うことは、ハイリスク・ハイリターンの戦略となります。
販売まで自社で手掛けるとなると、ペイするためには複数の製品で売上げを稼ぐ必要があり、そのためにはある程度の現地スタッフとMRを雇用しなければなりません。そして、バイオックスのような巨額の訴訟リスクに直面する可能性もあります。
2007年5月に、グラクソ・スミスクラインの糖尿病治療剤アバンディアに心筋梗塞の発症リスクがあると報じられました。武田薬品工業は、アバンディアと同じチアゾリジン系の糖尿病治療剤アクトスを販売していたため、アクトスにも同様のリスクがあるのではないかという懸念が生じました。
しかし、アクトスはPROactive試験と呼ばれる市販後の大規模臨床試験で虚血系心疾患の発症予防効果が認められていたため大事には至らず、医師がアバンディアからアクトスへ処方を切り替えたため漁夫の利を得る格好になりました。
もしPROactive試験が実施されていなければ、アクトスも同系の薬剤が持つ副作用であるクラス・エフェクトを疑われて、売上げを大幅に落としていた可能性も否定できません。
2007年度のアクトスの売上高は3962億円で、そのうち80%にあたる3186億円を米国市場から上げており、武田薬品工業にとっては正真正銘のドル箱商品です。アバンディアのケースは、医薬品の事業リスクの大きさを再認識させるものでした。こうした事業リスクは、日本の本社からコントロールできるものではありません。一寸先は闇というのが最近の米国の医薬品市場です。
それではなぜ、日本の医薬品企業は米国、欧州を目指し、新興国市場への進出を目論むのでしょうか。経済原理から見れば世界最大の医薬品市場で、成長率も薬価も日欧より高く、そして新薬開発のためのインフラが整っている米国への進出は当然の帰結となるでしょう。
一方で見過ごせないのは、当地日本の薬品市場の閉塞感です。残念ですが、多くの医薬品企業のトップは日本にいても、縮小均衡でジリ貧、医療・医薬行政の抜本的な改革やブレークスルーは期待できないと考えているのではないでしょうか。一方、遅ればせながら日本でも官民対話や、新しい薬価制度について議論が始まりました。議論の決着までには紆余曲折が予想されるものの、半歩前進くらいには考えてよいかもしれません。