「専門医制度」に対する疑問

 「よりよい医療を受けたい」と医療消費者なら誰もがそう考える。その際、もっとも信頼できる制度、それが『専門医』だ。『専門医』とは、5年以上の専門研修を受け、資格審査や試験に合格して学会に認定された医師のことだ。  この制度ができた背景には、日本医療界の4大特徴の一つである「自由標榜制」への批判かおる。この制度は「医師は自由に診療科目を選べる」という制度で、極端な話、内科医が耳鼻咽喉科を開院していても一向に構わないのだ。  このあいまいさを補う形でできたのが「専門医制度」だが、問題が出てきた。2つの学会が「癌治療」を目的とする専門医制度を別々に作ろうとして、無用の混乱を招いたのである。2つの学会とは『日本癌治療学会』(設立り1963年、会員数約1万4000人)と『日本臨床腫瘍学会』(設立=02年、会員数約3200人)である。  「癌治療学会」は04年10月から、手術はもちろん、抗ガン剤投与や放射線治療などガン治療全般を扱う専門医の試験を開催している。他方、「腫瘍学会」は、癌治療学会に所属していた会員の一部が92年に日本臨床腫瘍研究会として立ち上げ、02年に日本臨床腫瘍学会に発展した組織で、04年に一月から抗ガン剤による専門医の認定試験を実施している。一方はガン治療全般、他方は抗ガン剤による治療と、専門分野に違いがあるとはいえ医療消費者から見れば「ガン治療」に違いない。  マスコミは外科系と内科系の対立、あるいは慶応閥対旧帝大閥の学閥争いというトーンで記事にしたが、実際はそんな単純な構図ではない。日本におけるガン患者の割合はほぼ100人に1人。それだけ需要があり、専門医となれば。実”は大きい。この市場をめぐる覇権争いが背後には見え隠れしている。  「日本は全国どこの病院でも診療費は同じです。また、医者が手にするドクターフィー(診療報酬)も同じ。胃ガン摘出手術が初めてという医師も、何百例とこなしてきた名医もフィーは同じです。だから専門医にはフィーが上乗せされるべきだという議論が続いています」(医療ジャーナリスト)  2つの学会が別々に専門医試験を行うという事態で頭を悩ませたのは、専門医の質と活動を評価する第三者機関として81年に発足した「日本専門医認定機構」だ。学会が独自に専門医を認定できるようになったことで影の薄くなった同機構は、極端な話、存在の意義が問われている。