診療報酬で大儲けのコンタクト業界

一部コンタクト眼科にも中医協厚労省にも医道のかけらも見られない

使い捨てコンタクトレンズの普及によって、いまや格安コンタクト店では定価の2割、3割引きは当たり前、中には半額や7割引きまで現れている。その一方で診療報酬をめぐるトラブルも急増している。コンタクトレンズを購入するには眼科医の診察を受けることが法律で義務づけられている。そのため、コンタクト販売店の近くにはたいていは眼科が併設されている。こうしたコンタクト店と共存共栄関係にある眼科のことを業界では「コンタクト眼科」と呼んでおり、一般的な眼科とは区別して位置付けられている。

 患者の多くがコンタクト店の客のため、診察は簡単な検査が主で、診療の難しい眼病の患者が訪れるということは滅多にない。こうしたコンタクト眼科の中には実際には勤務していない医師が管理者として名義を貸し、報酬を得ているケースもある。コンタクト店が急速に増加した結果、併設するコンタクト眼科の管理者確保が難しくなっているためだ。一方には、名義貸しは違法と知りつつ、アルバイト勤務医感覚で名義を貸してしまう医師も少なくない。

 当然の事ながら“コンタクト眼科”が増えれば、審査機関に請求される診療報酬額も増える。日本眼科医会の推計では、コンタクト眼科の請求する医療費は年間2000億円を超えた。これは眼科診療機関全体の医療費約1兆円の2割に当たり、コンタクト販売のウラで診療報酬を荒稼ぎしている実態が容易に想像がつく。普通の眼科の場合、審査支払機関に出すレセプト(診療報酬明細書)は、「多くても月に1000枚程度」(ある眼科医)と言われるが、コンタクト眼科の中には月に3000枚ものレセプトを出す医師がいると言われる。

 コンタクトは一般的に若い世代ほど使用率は高くなる。当然、コンタクト眼科を訪れる患者は若年者が多い。にもかかわらず、10代、20代では通常やらない眼圧測定や精密眼底検査が行われる。眼圧測定は40代以上の患者に、緑内障などの検査をする際に実施するのが一般的だ。若者に不要とは言わないが、コンタクト眼科でこれらの検査項目が多いとなれば不自然で、過大請求の疑いは強い。悪質なコンタクト眼科になると、検査をやっていないのに行ったことにしたり、一度来院して診療を受けた患者をI週間後に再診を受けたことにして、架空請求するケースもある。これはコンタクト眼科だけでなく、広く医療界で使われる一般的な不正だ。

 コンタクト販売とコンタクト眼科が連携することで診療報酬を吸い上げる行為は、健康保険制度を悪用するいわば。詐欺ビジネス”と言える。05年4月の薬事法改正により、コンタクトレンズは「医療用具」から「高度管理医療機器」に格上げされ、05年19一月の中医協厚労省は、「06年4月からコンタクトレンズの定期検診を保険給付の対象から外す方向」と伝えた。過大・架空請求の温床になっていることもあり医療費削減の一方策で動いたのだろう。だが、医療消費者は負担が増え、今後ネット通販で買いだめに走ることも考えられる。こうなったらコンタクトレンズは高度管理医療機器どころか医療用具以下の存在となってしまい、医療から大きく逸脱する存在になる。一部コンタクト眼科にも中医協厚労省にも医道のかけらも見られない。