食欲抑制物質セロトニン

 

 最初に注目されたのが、前にも述べた脳内物質のセロトニンです。

 

 セロトニン受容体にはいくつかの種類があります。ある研究グループが、遺伝子操作で食欲に関係するセロトニン受容体を持たないマウスを作ることに成功しました。このマウスは、てんかんを起こして早死にしやすく、さらに、正常なマウスよりもたくさん食べ、そのために体重が多いことが分かりました。

 

 セロトニン受容体がないということは、セロトニンが不足した状態を意味します。ヒトでも、うつ病になってセロトニンが少なくなると、食欲が出て入ることがあります。さらに、うつ病の治療のためにセロトニンを増やす薬剤を使うと、食欲がなくなることも分かりました。

 

 こうしたことから、セロトニンは食欲を抑える働きがあると考えられたのです。

 

 さっそく、セロトニンを利用して食欲を抑制し、肥満の治療に使おうという試みがなされました。それは、セロトニン神経末端からのセロトニンの放出を促進し、それによって食欲を抑制しようとするものです。フェンフルラミンという薬剤で、一〇年ほど前にはアメリカで、ダイエット剤として大人気でした。

 

 しかし、フェンフルラミンを服用した人の約三〇ハーセントで心臓弁の異常がみつかり、現在では使用禁止になっています。

『脳の栄養失調』:高田明和著より