脳の「電池切れ」

 脳はきわめて膨大で精巧な情報処理システムです。そのためか、それ以外の機能はできるだけ減らそうとしています。必要なエネルギーや伝達物質の原料についても、その発生システムや貯蔵システムをもちません。脳は、必要なものを外部からの供給に頼っているのです。

 

 とくに重要なのは、脳はブドウ糖以外をエネルギー源にできないこと、しかも万一のためにブドウ糖を蓄えておく仕組みがないことです。

 

 正常な血糖値は、血液一〇〇ミリリットルニデシリットル)あたりブドウ糖一〇〇ミリグラムくらいです。これが四○砿ノ沮にまで落ちると脳の活動レベルが下がって、意識がもうろうとします。それが続けば、やがて脳は機能を失います。さらに、もしブドウ糖の供給が途絶えると、数分問で脳は機能を失ってしまいます。

 

 このことは、筋肉や肝臓など他の臓器と根本的に異なります。筋肉はしばらく血流が途絶えても機能を失うことはありません。まず蓄えてあるグリコーゲンからブドウ糖を作ります。グリコーゲンが尽きると、次には脂肪を分解してエネルギーを取りだすことができます。運動すると脂肪が減るのは、こうした理由によります。

 

 心臓の心筋も、脳と同じように、しばらく血流が途絶えると死滅します。これが心筋梗塞です。しかし心筋梗塞も脳とは根本的に異なります。心筋が死滅するのはブドウ糖の欠乏ではなく、酸素の欠乏によるのです。心筋もブドウ糖がないときには脂肪を分解して、そこからエネルギーを得ることができるのです。

 

 脳のエネルギー源は、いわばきわめて容量の小さな電池で、常に外部電源で充電していないと、すぐに「電池切れ」してしまうのです。

『脳の栄養失調』:高田明和著より