青背の魚-不飽和脂肪酸の血流改善効果

 

 もともと、食べ物が血液を「サラサラ」「トロトロ」にするといわれ出したのは、一九八〇年代の半ば頃、デンマークの栄養学者ダイアパークらの論文がきっかけだった。それは「グリーンランドに住むイヌイット族の人たちには血栓症が少ない」というものだ。イヌイット族は、漁業中心に生活している人たちで、食生活の中心は魚。肉や野菜をほとんど食べない。高脂肪である魚をたくさん食べているのに、なぜ血栓症が少ないのか、という疑間から、食べ物の血液の流れへの影響が研究されはじめた。

 

 研究が進むうちに、魚だけに含まれている成分が、血液中で血栓をおさえることがわかってきた。それが、青背の魚に多く含まれるEPAやDHAだ。これらの主成分は不飽和脂肪酸といわれる中でもn’3系の脂肪酸で、血小板の凝集をおさえるプロスタグランジン分子の前駆物質になる。

 

 実際に血液の流れへの影響はどうだろうか。

 

 そこで、サ(七〇グラムを食べたあと、血液の流れにどのような変化があらわれるかを調べた。三十代の男女一名ずつの測定結果は次のようだった。

 

 男性 摂取前五〇・六秒/摂取後四四・七秒/五・九秒短縮

 

 女性 摂取前三九・六秒/摂取後三五・七秒/三・九秒短縮

 

 どちらも、サバを食べたあとの血液の流れはよくなっていた。摂取後、男性のほうは少し血小板が流路の出口に凝集しはしたが、血液の流れは止まることなく流れた。血液の流れは、五・九秒縮まった。女性のほうも、摂取前より流れがよくなり、三・九秒縮まった。青背の魚は血流改善にやはり効果があった。ただし、摂取後一時間の変化だ。EPAとDHAの効果として説明できるかどうかは明らかではない。

 

 青背の魚に含まれるEPAとDHA。頭の働きをよくする効果絶大と、かなり有名になった。このほかにも、血液の循環をよくし、コレステロール中性脂肪を下げる作用など、さまざまな効用がいわれている。その効果を示すのが、魚や植物性の油脂にある不飽和脂肪酸だ。EPAをとると、血小板を凝集しにくくするプロスタグランジン分子がつくられ、血管に対して拡張作用を増すO 一方でヽアラキドン酸の比率が低下する一アラキドン酸からは二糖類のプロスクグランジン分子がつくられる。血小板からは血小板の凝集を促進するプロスタグランジンTXA2、血管内皮細胞からは血小板の凝集をおさえるプロスタグランジンPG12だ。血小板を凝集する物質と、それをおさえる物質のバランスがとても重要で、血小板の正常な働きを保証している。

 

   EPAにはまた、血液中の中性脂肪を下げる働きがあると指摘されている。中性脂肪はそのま  までは血液中を流れないため、カイロミクロンやVLDL(超低比重リポタンパク質)というリ  ポタンパク質と結びついて運搬される。そのVLDLの合成をEPAはおさえるといわれてい  る。VLDLが少なくなれば、中性脂肪の運搬が少なくなるため、血液中の中性脂肪が下がるの  ではないかといわれている。

   さらに、魚のタンパク質が消化される途中で生成するペプチドが、血圧のコントロールにもか  かわっている。アンジオテンシンーという物質がアンジオテンシンHという物質に変わると、血  圧が上昇するといわれているが、イワシのタンパク質からできるイワシペプチドは、アンジオテ  ンシンーから幵lへと変化させる酵素の活性を阻害する。イワシを多く食べれば、血圧を上昇させ  る物質の産生がおさえられるというわけだ。降圧薬の中には、この酵素の働きを阻害することで

効果を示すものがある。ACE酵素阻害薬だ。イワシを食べれば、血圧が下がる。大豆ペプチドにもACE酵素阻害作用が知られている。血圧を下げるのも、薬を飲むのではなく、食事で下げることを考えたい。

菊池佑二著「血液をサラサラにする生活術」より