タマネギ イオウが血小板凝集をおさえる

 

 脳卒中で倒れた前出のHさん(男性・五十四歳)はいのちはとりとめたものの、右脳視床下部のすぐそばの血管が切れていて、全身の左半分はすべて麻痺した。左目もほとんど見えない。五ヵ月間の入院後、駐車場での仕事に復帰した。現在は杖を使いながらではあるが、介助なしで自力で性事をこなしている。血圧は上が一四五四脆、下が九〇m毋で、降圧薬は使っていない。そのHさんが倒れてからずっと、食べ続けているものがある。タマネギだ。一日一個をスライスして、ごまドレッシングで食べている。「降圧薬も飲まないでいられるのは、このタマネギのおかげかな」という。タマネギには、血液の流れをよくする効果があるのだろうか?

 

 そこで、Hさんの通常の血流を調べた。通過速度は一回めが四四・四秒。二回めは四六・八秒。二回とも、男性の平均時間を下回る血液の流れだった。血ふ板が少し凝集することはあるが、血液の流れはいい。脳出血で倒れ、左半身麻痺という後遺症かおりながら、薬も服用していないHさんの血液は「合格点」だった。

 

 そこで、他の二人の人にタマネギをためしてもらった。Tさん(男性・五す四歳)とK子さん(女性・四十四歳)だ。中ぐらいのタマネギ一個を縦半分に切ってスライスし、水にさらさす三〇分おいてから、ノーオイルドレッシンブをかけて食べてもらった。ちなみに二人は、日常はタマネギを特に意識せず食事の中で食べている。結果は、次のとおり。

 

 Tさん  摂取前一回め四一・〇秒/二回め三四・五秒/摂取後一時間三六・九秒

 

 K子さん 摂取前一回め四一・六秒/二回め七九・九秒/摂取後一時間四二・六秒

 

 Tさんは食べる前の一回めの測定より、K子さんは食べる前二回めの測定より、食べたあとのほうがよくなった。しかし、どちらも、摂取前に二回採取した血液の流れには変動があり、どちらとくらべるかによって、タマネギの効果の評価は分かれる。タマネギの血流改善効果については、すべての人に効果があるかどうかは、今後の研究が待たれる。

 

 ニンニクやタマネギなどにおいのある野菜に含まれるイオウ。そのにおいの成分だったアリシンは、タマネギにも含まれる。とはいっても、タマネギに含まれるイオウ含有量は、ニンニクの三分の一ほどでしかない。このイオウ化合物アリシンが血小板の凝集をおさえる働きをしているタマネギは、調理法によっては中性脂肪や血糖値、コレステロールを下げる作用があるといわれている。タマネギに含まれる硫化プロピルは、血液中のブドウ糖の代謝を促進し、血糖値を下げる作用がある。ただし、熱を加えると効果はなくなるので、血糖値を下げる目的なら、生のまま食べるほうがいい。生で食べる場合も、タマネギを水にさらすと、イオウ化合物が水溶性なので水に流れ出て効果が減少する。切ってから三〇分くらい空気にさらすと、苦みも少なくなって食べやすい。 また、硫化プロピルは、熱を加えるとトリスルフィドという成分に変わる。さらにこれに長時間、熱を加えるとセパエンという成分に変化して、中性脂肪コレステロールを下げる作用があるといわれている。

 

 タマネギの黄色の組織にはケルセチンと呼ばれる色素があって、これに抗酸化作用がある。これはポリフェノールの一種で、血液中のリポタンパク質の酸化をおさえたり、細胞膜の脂質の酸化を防ぐ。ケルセチンには、血漿中の過酸化物質の増加をおさえることと、キレート作用の二つの作用がある。クェン酸がカルシウムイオンとくっつくときの、あのキレート作用だ。

菊池佑二著「血液をサラサラにする生活術」より