黒豆の煮汁・煮豆-血圧を下げる効果もあり

 

 一九九八年、私は兵庫県のノザキクリニックの野崎豊院長から、ある依頼を受けた。それは、高血圧患者に黒豆の煮汁を飲んでもらったら血圧が下がった。なぜ、血圧が下がるのか、そのメカニズムを調べてほしいというものだった。「丹波の黒豆」で有名なその地方では、昔から黒豆の効用がいわれていた。野崎院長は一〇年ほど前から、高血圧にもきくかもしれないと、高血圧の患者に黒豆の煮汁をためしていたのだ。

 

 その一人の女性(四十五歳)は、血圧は上が二〇〇四≒、下が一〇五皿毋あったが、薬を敬遠して、それまで降圧薬を飲んだことはなかった。そこで、五〇グラムの黒豆を一リットルの水に五時間以上つけおきしたあと、二分の一程度になるまで煮つめ、その煮汁だけを一日数回に分けて飲んでもらった。すると、一ヵ月で上が一四〇皿晦、下が九〇皿毋となり、四ヵ月飲み続けたところ、血圧が正常値域になった。上の血圧はストレスなどの影響を受けるが、下は動脈硬化の指標ともなり、精神的な影響では下がらない。明らかに黒豆が血圧低下に関与していそうだ。その後も、高血圧患者に黒豆の煮汁をためしたところ、次々と好結果が得られたという。

 

 また、心筋虚血の目安となるCK(クレアチンキナーゼ)の値も調べた。狭心症の男性(六十五歳)は、煮汁を飲む前に二八〇(正常範囲は二五~一九五)だったCKが二ヵ月で一七四に、また、別の男性(五十四歳)は三二四が二週間で一七六になった。これは冠循環の改善を示している。野崎院長は、こうしたデータを携えて、私のいるつくば市の研究所まではるばる訪ねてきたのだ。

 

 そこで、二〇代から五〇代の男女一五名から血液をとり、毛細血管モデルで血液の通過時間を測定した。それから、黒豆煮汁を湯飲み茶碗一杯ずつ飲んでもらい、その一時間後に、再び採血をして通過時間を測った。

 

 飲んでもらった黒豆煮汁は、黒豆五〇グラムを五〇〇ミリリットルの水に一晩つけておき、翌朝、つけた水ごと強火で沸騰させたのち、一時間ほど弱火で煮つめたものだ。これで一人分になる。その結果、一五名中八名に明らかな改善効果がみられた。もっとも顕著な例では、通過するのに一〇〇秒をこえていた人が、黒豆煮汁を飲んだら三〇秒台に短縮され、ほぼ三倍の速さになった。

 

 通過時間の長い人の画像を見ると、煮汁を飲む前は、血小板が凝集して流れにくいようすが見てとれる。それが飲んだあとは、血小板の凝集が認められなくなり、スムーズに流れている。

 

 ただし、黒豆煮汁を飲んだ全員の血液が改善されたわけではない。もともと血液の流れやすい人もいれば、流れにくい人もいる。流れやすい人は変化がないか、中には若干悪くなった例もあった。しかし、大事なのは、流れの悪かった人は、全員が改善しているということだ。しかも、ほぼ全員が正常節囲といっていい三〇~六〇秒の範囲におさまっていた。

 

 黒豆がもともとの血液の流れ方によって、その効果のあらわれ方が違う実例をみてみよう。一子さん(女性)は五十三歳のとき、夕壬膜下出血で倒れ、三ヵ月間意識がない状態だった。いのちはとりとめたが、視野狭窄弱視の後遺症が残った。現在も血管を拡張する二糖類の薬を一日三回飲んでいる。血圧は高くはないが、健康診断では高脂血症といわれて

いる。

 

 一子さんのもともとの血液の流れを測定してみた。一度めは、血液が「トロトロ」状態で流路を完全に流れなくなって、測定不能。再度採血しても、血小板の凝集でほとんど流れない状態で、通過時間は一〇八・八秒だった。そこで、黒豆の煮豆を二五〇グラム食べてもらい、一時間後に採血し、また測定。結果は七二・九秒、三〇秒以上も短縮されていた。さらに、黒豆を食べてから二時間後に測定すると、通過時間はさらに短縮。女性の平均値とぼけ同じ四七・一秒になっていた。もともとの血液の流れからみると、半分以下に短縮されたわけだ。黒豆の血流改善効果だ。

 

 一子さんにはその後も一週間、黒豆の煮豆を食べ続けてもらった。黒豆の煮豆を一日二五〇グラム、三食に分けて食べたところ、結果は、五五・二秒になった。測定不能だった一子さんの血液の流れがよくなったと判断できる。 一方、指圧師のGさん(男性・六十八歳)。毎日一時間のウォーキング、スクワット、前屈・後屈などの運動をここ三〇年欠かしたことはない。週に三回は筋肉トレーニングをし、シーズンになると月の半分はスキーに行っているスポーツマン。とても見た目では、実年齢には見えない。魚や野菜中心の食事で、特に魚は生で食べるのが好きだ。ぬか漬けや豆腐・わかめなどもよく食べる。いたって健康で、四〇年以上、病気らしい病気はしたことがない。疲れを感じたら、無理せずに睡眠をとることにしている。ただ一つ、血圧が高めなので降圧薬を服用中。血圧は上が一四〇皿恥、下が八五四脂だという。

 

 Gさんの血液の流れを測定すると、四七・七秒。男性の平均以下だ。そこで、黒豆の煮豆を食べてもらい、一時間後に測定したところ、五二・二秒になっていた。すこしばかり、血液の流れが遅くなっている。とはいっても、正常範囲内である。

 

 それまでの実験や一子さん、Gさんの例から、まず、黒豆は血流改善に効果があることがわかった。ただし、血液の流れがもともと悪い人には血流改善効果をもたらすが、流れのいい人に対しては、そうではないようだ。また、黒豆の煮汁をとった場合と、黒豆の煮豆をとった場合も、効果には極端な差はみられない。ただし、煮汁のほうが液体なので、すばやく血液に入り、効果があらわれる。

菊池佑二著「血液をサラサラにする生活術」より