酢・黒酢-昔からいかれていた酢の効果が証明された

 

 洋の東西を間わず、酢は体にいいとされ、広く調味料に使われてきた。「疲れたときには酢の物」とよくいわれる。最近は、手軽に飲めて夏バテを防ぐ、と酢ドリンクの売れ行きも好調だそうだ。もともと酢は、紀元前四〇〇年のギリシャ時代から薬としての効果がいわれ、呼吸器の病気や狂犬病の大にかまれたときの治療などに使われたそうだ。日本でも、江戸時代に晝かれた『本朝食繿』に酢の効用についての記録が残っている。最近では疲労回復のほか、肩凝りや便秘、腰痛、高血圧、糖尿病、肥満、肝炎、アレルギー性皮膚炎にきくなどの報告がされている。

 

 酢の中でも最近、注目されているのが黒酢だ。鹿児島県の福山町に江戸時代から伝えられている黒酢は、市販されている食酢とは違う効用が認められるといわれる。酢は、米を糖化してアルコール発酵させたあと、酢酸発酵をへてできあがる。ところが、黒酢は同じ米酢でありながら、通常の米酢の一〇~二〇倍もの豊富なアミノ酸や有機酸が含まれているという。蒸した米と麹を水につけて一年間、屋外で発酵させる。また、その土地独自の微生物もかかかっているらしい。その酢に、血液の流動性を高める効果があることがわかってきた。

 

 冷え性で悩んでいた主婦F子さん(四十八歳)と、疲れやすく肩凝りのある主婦M子さん(三十八歳)について、米酢を飲んで、血流がどう変わるか測定した。木酢を飲む前のF子さんの血流速度は三七・四秒。かなりサラサラ流れている。M子さんのほうも三九・一秒と、これも平均以下で血流はいい。この二人に、普通の米酢一五ミリリットルを、水で一〇倍に薄めて飲んでもらった。飲んでから一時間後に測定すると、F子さんは三一・三秒、M子さんは三三・六秒と、流れのよかった血液がさらにサラサラになった。一時間で、血流改善効果があらわれたのだ。

 

 一方で、黒酢についても二人の男性を調べてみた。駐車場の交通整理をしているHさん(五十四歳)は一九九五年の冬に脳卒中で倒れ、意識不明のまま病院に運ばれた。右脳視床下部のそばの血管が切れたため手術ができず、止血剤での治療となった。二ヵ月の治療、三ヵ月のリ(ビリと、五ヵ月間入院した。その後、二年近く休職し、現在は以前の職場に昃って働いている。言語障害はなかったものの、左側の上半身、下半身がともに麻痺する後遺症が残った。倒れてからは、それまでの暴飲暴食を改めて野菜と魚中心の食事にした。タマネギやニラ、ニンニク、納豆をよく食べるようにしている。こうした努力の結果か、血圧は上が一四五四毋、下が九〇皿恥と正常域に近い。現在は尿酸値が高いために、それをおさえる薬を服用しているが、降圧薬や血管拡張薬などは飲んでいない。さて、Hさんの通常時の血液の流れはどうか。結果は五三・四秒。血小板がややくっつきやすいが、「トロトロ」状態ではない。 もう一人の協力者は、Sさん(六十二歳)。設計士で仕事が夜中になることもあり、生活が不規則になりがちだ。神経もつかう。一九八九年に胃の悪性ポリープの切除手術を受け、胃の五分の四を切った。また、一〇年ほど前から境界型の糖尿病といわれ、月に一度は専門医に診せている。グルコバイという血糖降下剤を食事の前に服用している。食事は三食きちんと食べる。さっばりとした和食が中心で、揚げ物や肉はほとんど食べない。血圧は上が一四〇皿毋、下が九〇皿恥だ。Sさんの血液の通過時間は、四三・二秒。血小板の凝集もなく流れはスムーズだ。

 

 そこで、二人に、黒酢一五ミリリットルを一〇倍に薄めて飲んでもらった。一時間後の測定結果は、五三・四秒だったHさんが三七・二秒、四三・二秒だったSさんが、三三・二秒と、どちらも短縮されていた。

 

 酢の酸っばい成分は酢酸だ。梅手しの酸っばさの成分がクェン酸だが、クェン酸も酢酸もクェン酸回路に入ってエネルギーに変えられる。クェン酸回路がよく回ると、乳酸もピルビン酸になってエネルギーを産生する。こうした反応は、細胞内のミトコンドリアという小器官で酵素を利用して行われている。クェン酸や酢をとると疲労が回復子るのは、こうした理由からだと広く考えられている。

 

 しかし、本当の理由は、血液が流れやすくなって組織に酸素が届くようになり、クェン酸回路が回るようになるからだ。クェン酸と同じく酢酸も、カルシウムイオンとくっつく作用がある。くっつく力は、クェン酸のほうが大きいが、酢酸がカルシウムイオンとっくことで、血ふ板の凝集をおさえ、血流をよくしていると考えられる。