梅肉エキス 新成分ムメフラールの効果

 

 梅の産地、和歌山県南部川村では、どこの家庭でも常備している自家製の薬かおる。ドロツとした真っ黒い液体。なめてみると、口が曲がるくらいに酸っばい一それが梅肉エキスだ。梅肉エキスは、青梅の絞り汁を煮つめたもので、江戸時代後期から伝わる日本の伝統的な民間薬。梅の季節になると、昔は梅肉エキスを手作りする家庭も多かったようだ。梅肉エキスは、疲労回復からかぜ、下痢、食中毒の予防、二日酔いにもすぐれた効果を発揮する。「青梅は食べてはいけない」といわれているが、青梅に熱を加えることで、ある化学反応がおきる。この梅肉エキスに血流改善効果がみられたのだ。

 

 成人男女一〇名から採血し、血液の流動性を調べたところ、流れの悪い女性が三名いた。その人たちに梅肉エキスをためしてもらった。

 

 まず、梅肉エキスをためす前の自分の血液を見て、「メチャメチヤ、ショックー」と声をあげたのはクラシック歌手であるN子さん(女性・四十二歳)。通過時間は一九一秒だった。血小板が凝集し、女性の平均値の四倍以上の時間がかかっている。N子さんは、仕事と家事の両立で忙しい毎日を送っていた。

 

 また、初めての子どもが産まれて子育てに追われるS子さん(三十歳)の血液も五六秒と、

「トロトロ」ぎみだった。 家族の生活時間がばらばらで、一日中家事に追われる主婦U子さん(五十五歳)は、血「小板が凝集してしまい、血液が完全にストップ。計測は不能だった。U子さんは冷え性や肩凝りに悩んでいるとのことだった。

 

 そこで、この三人に一週間、悔肉エキスを飲んでもらい、血液の流れを、再度測定した。量は、一日小さじ一杯。結果は、驚くほどだった。前回、平均の四倍以上だったN子さんは、五八秒になった。流れが止まってしまったU子さんは、測定不能から四八秒まで縮まった。S子さんは四一秒と、平均を下回った。三人全員に梅肉エキスの血流改善効果がみられた。

 

 また、成人の男性から採取した静脈血に、梅肉エキスの生理食塩水溶液を加えて、その血流の変化も調べた。その結果、個人差かおるものの、梅肉エキス溶液を加えた血液の通過時間は、生理食塩水だけを加えた血液とくらべて、時間が一一~五ニパーセント短縮した。血流改善効果は、この実験からも明らかになった。

 

 なぜ、梅肉エキスにこのように顕著な血流改善効果があるのか。その効果の一部が、クェン酸によることは間違いないが、どうもそれだけではないらしい。梅肉エキスの成分を分析するうちに、今までどの文献にも報告されていない新しい成分が見つかったのだ。そして、その成分に血小板の凝集を抑制する作用かおることがわかった。

 

 私たちは、この成分を「ムメフラール」と名づけた。ムメは梅の学名「プルヌスームメ」からとったものだ。成分を単離して構造を解析してみると、生の梅に含まれる糖が「51ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)」となり、さらにそれにクェン酸がエステル結含した化含物であることがわかった。

 

 ムメフラールは、生の梅にはない成分で、梅肉エキスを製造する過程で生成すると考えられる。生の梅に熱を加えると、生梅の酵素活性が失われ、酸性条性のもとで進行する化学反応によって、この機能成分ができる。クェン酸と同様に、カルシウムイオンと結合することで血小板の凝集をおさえる。クェン酸は、体の活動を維持するエネルギーである、リン酸化含物(ATP=アデノシン三リン酸)をつくる代謝回路のクェン酸回路の中心物質だ。そのため、血液中のクェン酸はすぐにクェン酸回路にとり込まれてしまう。その点、ムメフラールはクェン酸回路に入れないので、血液中に長く保たれ、その効果も持続することが予想される。

 

 私は今まで血流を改善させるさまざまな食品を調べてきたが、どの成分にその効果があるのかが解析されたのは初めてだ。これはすばらしいことだが、同時に、有効成分を求める考え方の危うさをも指摘しておかなければならない。私たちは有効成分という考え方になれすぎているため、たとえば、血流を改善する食品に対して、「有効成分は何ですか?」と聞かすにはいられない。厚生労働省が認める特定保健用食品についても、有効成分がわかっていること

 

その有効成分を定量できること

その食品中の有効成分の量が明らかであることが、絶対条性になっている。

 

 しかし、この考え方にとらわれているかぎり、私は本当に健康効果のある食品にはたどりつけないと思っている。

 

 漢方では、生薬を混ぜて使うことが基本だ。それも、人を診て調合を変えなければならないという。さらに、その調合が本当にできる人は少ないという。食品成分も単独で作用するということはありえない。多くの成分と一緒になって作用する。食事もそうだ。単品ずつ食べていく人は、おそらくいないであろう。必ず一緒に食べあわせているのだ。それによって、よい結果が得られていると思う。

 

 梅肉エキスの成分でいえば、成分の中には血小板を強く凝集させる成分も含まれている。血液の循環からみれば悪い成分だが、そう単純にいいきれないと思う。たとえば、アドレナリン、ノルアドレナリンは血小板を凝集させる作用をもっている。それだからといって、アドレナン、ノルアドレナリンを悪い物質といえないことはもちろんである。血小板を凝集させる成分とともにムメフラールが含まれていて、梅肉エキスなのだ。だから、個人差も出てくる。また、とる量も一日、小さじ一杯程度がよいのもそうした理由からで、思わぬ副作用もありえると思う。

 

 梅肉エキスは、食品というよりは、昔から民間薬として使われてきたように、薬として使用することが望ましいのであろう。それはそれとして、加熱して初めてできるムメフラール。ニンニクや梅干しを焼いて食べるという知恵があったが、同様に焼くことでプラス aされる成分があることを昔の人も知っていたのだろう。

 

 梅肉エキスは、家庭でも作ることができる。