悲しい語学留学生の話

 

 イギリス留学をした友人の体験談である。ある時スーパーに買い物に行ったところ、日本人の女性に日本語で話しかけられたそうである。受け答えをしているうちに、話をしたい様子なので喫茶店でしばらく付き合ったそうだ。イギリス人と結婚している人だとわかっが、

いろいろな話を次から次にほとんど一方的に聞かされて別れたという。

 

 少々奇異な思いがしたので、留学仲間の一人に、この話をしてみたところ、彼も同じような体験をしたと言う。だんだんわかったことは、こういう女性が結構たくさんいて、少し長く滞在している留学生の間ではかなり知られているということである。その後、彼はやはりスーパーで日本人に話しかけている日本女性を見かけたことがあったと言う。

 

 なぜ彼女たちが見ず知らずの日本人に話しかけてくるのかというと、本当は日本に一時帰国したいのだが、そのお金がない。仕方なしに日本人を見つけて話をして、寂しさを紛らしているらしい、ということがわかってきた。イギリスから日本に帰る飛行機代はかなりかかるので、結婚した相手があまりお金持ちでないとそうそう帰るわけにはいかないのである。自分が働いていれば、そのくらいの余裕はできるかもしれないが、多くの場合それができる英語力がないのだ。

 

 イギリスに語学留学をして、イギリス人と結婚しているのに英語力がないだと!・ と意外に思われるかもしれない。しかし、現実はそう甘くはないのである。結婚相手の夫との会話は不自由のない英語のレベルには達していても、イギリス人並みにイギリスで仕事をする英語力となると、とてもそこまでは行っていない。向こうで仕事をする限り、日本人だからといってハンディキャップをつけてもらうわけにはいかないのである。

 

 もし彼女が、ある特定の能力、たとえば日本語教師資格というものを持っているとすれば、これと合わせてその英語力が生かせたかもしれない。

 

 少しくらい英語ができても、というよりもかなり英語ができても、しかも夢に見たようなイギリスのすてきな男性と結婚できても、それだけでは、そうそう幸せが転がり込んでくるわけではない、ということがよくわかる話である。

文科省が英語を壊す:茂木弘道著より