小さい時から英語をやれば苦労しないでうまくなる?

 

 「自分がこんなに苦労しても英語ができないのは、要するに小さい時からやらなかったからだ。考えてみれば、自分は何の苦労もしないで日本語を覚えた。小さい時からやれば言葉なんて簡単に覚えられるのだ」といったはなはだわかりやすく、疑いようのないようにみえる理屈がある。実はこれはとんでもない錯覚であり、多くの人を虜にする汎大衆的な錯覚である。

 

 この錯覚に後押しされて、文部科学省は二〇〇二年から小学校の「総合的な学習」で英語を導入できるようにしたので、かなりの小学校で英語教育が行われるようになった。一九九九年の学習指導要領の「ゆとり教育」の路線の中に、国際理解という名目で英語が取り入れられるようになったのである。国際理解とお子さま英語が結びっくなどということ自体が時代錯誤的なお笑いであるが、ある調査によると国民の八六%が小学校への英語教育導入を望んでいると言う。さらに幼児英語教室が花盛りである。これで自分の子どもは自分のように英語に苦労しなくても済むと期待してのことである。

 

 しかしながら、錯覚に基づくこの期待は九九%裏切られること必至である。なぜかというと、そもそもわれわれは何の苦労もしないで自然に日本語を覚えたのではないからである。小学校に上がる六歳までにざっと計算して、およそ二万五〇〇〇時間という気の遠くなるような膨大な時間をかけて日本語を習得しているのである。

 

 われわれが、自然に、と思えるように日本語を覚えることができた秘密は実はここにある。週に二時間英語に触れるのと、われわれが小さい時から膨大な時間をかけて日本語を覚えたのとは、根本的に別のことである。たとえば、小学校三年から六年まで週二時間英語を・・・

 

文科省が英語を壊す:茂木弘道著より