再生医療の一翼を担う医薬品

 奈良県立医大独立行政法人・産業技術総合研究万ティッシュエンジニアリンダの共同研究で、世界で初めて骨髄細胞でくるまれた関節が誕生した。セラミックの芯を、患者の骨髄細胞から作った「骨」でくるんで人工関節にし、足首への移植手術2例に使用したところ、いずれも世界で初めて成功したという。

 

 セラミックだけで作られた人工関節は緩みや拒絶反応など、手術後、うまく定着するかが間題だった。骨髄細胞でくるむことで定着力が高まったといえる。骨髄細胞は神経や肝臓などの細胞にも成長するところから、今後再生医療での様々な応用に期待できる。

 

 患者は足首の軟骨がすり減り、痛みや歩行困難を引き起こす「変形性足関節症」を抱えていた70歳と66歳の女性。2001年11月に2人の患者から約10皿の骨髄細胞を採取。骨など様々な組織に分化する「問葉系幹細胞」のみを増殖させ、この幹細胞でセラミック裝  

の人工関節をコーティングし約1ヶ月間培養した。

 

 こうして表面に患者由来の骨の細胞が形成された「オーダーメイド関節」を同年12月、患部に移植する手術を行った。患者は2人とも「以前の痛みが消えた」と話し、後に退院して自宅で歩行訓練するまでになったという。

 

 開発を担当した奈良医大の越智光夫教授(整形外科)は、次のように自負している。

 

 「人工関節に人工物と生体材料を組み合わせても、これまで生物学的に結合が難しかった。今回の開発と移植手術の成功は、その欠点を克服する画期的な第一歩だ」(産経新聞02年1月29日)

 

 これは最近脚光を浴びている再生医療の勝利であり、かつ患者の足にあったオーダーメイド医療、かつ細胞医療ともいえる。

 

 人間は60兆個の細胞で構成されているといわれる。しかし、最初は「受精卵」という1個の細胞から誕生する。受精卵が分化を繰り返し増殖し、骨や筋肉、血液などに発展して

いく。その分化の前駆的細胞を「幹細胞」(ES細胞)という。細胞医療で使用される細胞は、分化しきった細胞ではなく、まだ分化の可能性大の幹細胞を利用する。

 

 組織や骨髄の中から、目的とする幹細胞を選り分ける作業からはじめるが、そのためにそれぞれの幹細胞表面の目印(マーカー)を詳しく研究し、その幹細胞に特異的な目印を確認する。そしてFACSという機械を使って、その細胞だけを集める。集めた幹細胞を増殖・分化因子や様々な化学物質を加えて培養させ、増殖・分化させる。そしてその細胞を再び患者の体内に戻す。

 

 この場合は、セラミックという人工臓器に細胞の種を植え付け、培養することで、増殖・分化させて人工的な基盤を細胞で覆い、細胞臓器を作り、それを患者に移植した。これをハイブリッド型臓器と呼んでいる。形や耐久性は人工素材、生体親和性や臓器機能は細胞に任せるというわけだ。

 

 もちろん将来的には、幹細胞からすべての臓器が再生されれば、人工臓器やヒトの臓器移植などの間題は一挙に解決するが、まだ遠い話のようだ。

 遺伝子診断は血液などを採取し、遺伝子に異常があるかないかを調べ、病気との因果関係を特定していく。それによって病気やその種類が分かれば、治療方針も立てやすい。たとえば、慢性骨髄性白血病は、はとんどの患者で22番染色体の一部が短くなっている。人間の遺伝子ではない遺伝子が発見されれば、感染症を疑うことになる。結核菌は、従来の検査方法では1ヶ月以上かかっていたが、遺伝子診断では1週間から数日で分かる。

 

 束京千代出区の「九段クリニック」(阿部博幸理事長)では「遺伝子ドック」を開設している。診断のつく病名は、骨粗転症、アルツハイマー病、肥満、心肥大、虚血性心疾患、動脈硬化、高血圧、子宮ガン、飲酒による食道ガン・咽頭ガン、喫煙による肺ガン。遺伝子を採取するには、「頬の粘膜を2本の綿棒でこすり、細胞を採取する」「血液を採取する」だけだという。ただ子宮ガン検査は「子宮頚部から直接細胞を採取する」という方法がとられる。

 

 遺伝子診断を受診する人は、必ずカウンセリングを受けなければならず、また自らの意志で受診することが前提となっている。これは遺伝子診断が、将来のかかりやすい病気をも判明させてしまうからである。遺伝子診断によって重大な病気が明らかになった場合、心のケアをどうするかにもつながってくる。診断結果を前向きに捉えて、発症前にライフスタイルを変えて予防に努めればよいが、逆に落ち込んで仕事が手に付かなくなる人も出てくる。

 

 つまり遺伝子診断は両刃の剣となりうる。さらに困難な問題は、出生前診断受精卵診断では、羊水検査などの方法により、胎児の遺伝的形質が明らかになる。もし胎児に何らかの障害があれば、どうするのか、という重い課題が残る。

期待される日本のバイオベンチャー

 日本のバイオベンチャーは、設立されて間もない企業が多い。実績や業績はともかく、その主たる事業を見てみよう。

 

 「ジェンコム」(小林利克社長)は、99年9月、三菱化学ウェルファイド協和発酵の3社共同で設立された。事業は、三菱化学生命科学研究所のバイオ部門が保有する遺伝子機能解析技術の受託研究およびヒト型モデルの作成。同社は、DNAとタンパク質の相互作用によるヒト遺伝子機能解析に独自手法を持っており、その技術をもとに生体内ヒト遺伝子ネットワークの解析を行う。

 

 疾患治療の標的分子の確認やヒト疾患にきわめて近いモデル動物の作成を容易にして新薬開発を従来よりも格段と効率化させる。

 

 「バイオクエスト」(石井泉社長)は、医学・薬学・生化学などの基礎研究に用いられ細胞培養用基材、標識分子の開発・製造・販売を行うことを目的に設立された。

 

 各医科大学と共同で、糖尿病や膵ガン摘出などインスリンが絶対的にまたは相対的に欠乏する人たちに対する免疫抑制剤の代替治療として、「再生膵臓システム」の構築を目的とする産学協同プロジェクトをスタートさせた。

 

 「メディネット」(本村佳司社長)は、ガンや感染症の治療法として注目されている免疫細胞療法に必要な治療用細胞の加工という新分野の事業を目的としている。免疫細胞はガンやウイルス感染症に対する生体防御の主体となる細胞を体外で活性化・培養など加工して病気と闘う力を人為的に強め、それを投与することで、治療効果をあげるというもの。

 

 たとえば、患者のTリンパ球を体外で大量に増殖、活性化させて患者に戻す活性化白己リンパ球療法や樹状細胞を用いた細胞ワクチン療法などがあるという。

 

 「ナノキヤリア」(中富一郎社長)は、ナノメーターサイズの粒子の中に医薬品、遺伝子診断薬を運用することを目的に設立された。同社が研究間発ずる「ミセル化ナノスフィ ア」(高分子ミセル)は、外核の親水性ポリマーと内核の疎水性ポリマーからなる。この内核に医薬品、遺伝子などを保持できるので、血液中で持続的に安定した薬物キャリアとなり、ガン組織に蓄積できる。

 

 「医薬分子設計研究所」(板井昭子社長)は、医薬開発候補化合物の開発・提供、製薬企業の創薬研究の受諾、独白のドラッグデザイン手法と生物情報解析システムの開発、利用許諾が事業。現在生物情報システムを間発しており、これによって創薬ターゲットを即座に発見できるという。

 

 「ドラゴン・ジェノミクス」(加藤拓之進社長)は、宝酒造の子会社。ロシュが特許を持つPCR法(遺伝子増幅技術)に対し、ICAN法という増幅法を発明し特許を有する。セビフ社に対抗すべく、アジアの巨大解析センターを目指している。DNAチップは米国のリンクスという会社と提携し、各疾患別に特化したチップを開発する。資本金は50億円とペンチャーとはいえないに額。日本が誇るバイオ企業で、唯一米国とわたりあえる企業。

紙の沢山とれるポプラと樹木燃料

 東京農工大学の諸星紀幸教授らは、遺伝子組み替え技術を使って紙の原料となる成分の比率を高めた新種ポプラを間発し、農水省森林総合研究所の温室で栽培試験を行っている。

遺伝子組み替え樹木の栽培試験は国内で初めて。

 

 このポプラは、無駄な部分が少ないため紙を効率よく生皮できると期待されている。ポプラを成長させたあと、成分を詳しく分析し、実用化の方向を探るという。

 

 植物の細胞は、リグユンとセルロースで構成されているが、紙の原料になるのはセルロース。教授らは、遺伝子組み替え技術でリグユンの成分を抑えることに成功した。リグユンを合成するときに働くペルオキシダーゼという酵素の遺伝子にふたをして働きを抑えるアンチセンス技術を使って、リグユンが合成される経路を封じたのである。ペルオキシダーゼには複数の働きがあるが、リグユンの合成だけを抑えるため、ふたをする時期や位置を工夫したのがポイントだという。

 

 組み替えポプラの芽を分析した結果、ペルオキシダーゼの働きを封じたポプラは、封じ  ないものより平均で2割、最大で5割ほどリグニンの量が減っていたという。

 

 樹木はトマトなどの野菜に比べて遺伝子組み替え技術の開発が遅れている。細胞に遺伝子を組み込んだ後、細胞を一人前の植物体に成長させるのが難しいからだという。

 

 しかし、スウェーデンなどの森林国では、樹木を次世代燃料メタノールの原料として研究開発が盛んだ。メタノールは硫黄分を含まないため、燃やしても大気汚染を引き起こす硫黄酸化物(SOX)は排出されない。また窒素酸化物(NOX)の発生量も、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(C02)の発生も、石油に比べて断然少ない。

 

 メタノール天然ガスからも生佐されているが、古紙、廃材、プラスチックなどからも作れる。森林伐採の進む地球では、成長の早い樹木を作ることも地球環境に貢献できる。

バイオーレメディエーション(環境)とゼネコン

 

 土壌や湖沼には自然の生態系が本来有している浄化能力が備わっている。しかし環境汚染で、その能力が衰退してくというのが今の地球の姿。その浄化能力を人工的に高めようというのがバイオーレメディエーションだ。エコテクノロジーの1分野ともいえる。 主に有害汚染物質を微生物により分解・無害化し、現場の修復を図る技術である。汚染地域を対象に、有害物質を分解できる微生物を育種し、これを直接導入して能率的に汚染を除去しようというもので、富栄養化湖沼の浄化などを目的とする長期対応型と、石油による汚染土壌の修復などを目的とする突発型対応に分けられる。

 

 バイオーレメディエーションの特徴は、二次汚染の心配が少なく、現場処理が可能であり、かつエネルギーの投入が少なくて済むということだ。

 

 たとえば、ガソリンーディーゼル油に汚染された石油精製所跡地の修復、トリクロロエチレン(有機塩素系物質)などに汚染された半導体工場跡地の修復などにあたる。

 

 「土壌浄化は事業になる」と、ゼネコン各社が相次いでこの分野に乗り出している。必ずしもバイオ技術を用いたものだけではないが、建設不況が長引くだけに、各社とも必死だ。清水建設は、昨年4月に国立オランダ応用科学研究所を中心とするオランダ企業3社と提携、従来と比ベコストが3~4割安い土壌汚染浄化システムを導入し、同時に土壌環境木部を設置している。

 

 大林組は地中の微生物を使い、浄化期間を従来の半分に短縮するコバイオダスターエ法」をスウェーデンから導入。(ザマは鴻池組と共同で米国から技術導入した汚染土壌を溶解固化して無害化する「ジオメルトエ法」を利用し、和歌山県内の産廃焼却場跡地で、ダイオキシン類に汚染された土壌の浄化を実施した。

 

 飛島建設も、ダイオキシンや重金属に汚染された土壌を溶融せず常温のまま、特殊な化学処理を行うことで浄化する「DCR工法」をドイツから導入している。

 

 ごみ焼却場周辺の土地からダイオキシン類が検出されるなど、日本の土壌汚染は全国で44万力所あるといわれるから、かなり有力な市場だ。

バイオインフォマティクス分野

 

 バイオインフォフアイクス(生物情報科学)は比較的新しい分野である。バイオテクノロジーの発展は、バイオインフォマティクスなくしては考えられなかった。遺伝子工学といった場合の「工学」を支えている産業である。いささか抽象的になるが、機械工学、電子工学、情報工学が合体してできたのが、バイオインフォ了アイクスである。そもそもバイオインフォマクティクスは、機械として生物を考え、情報分析から生物を考えるという視点から思考している。

 

 この分野の主役はコンピュータの解析部門であるが、これなくしては遺伝子解析も、バイオエ学も発展しなかった。この業界は遺伝子解析が中心であるが、たんぱく質を中心に解明が早まれば、米国を抜くことも考えられる。具体的には、たんぱく質コード領域(0RF)の予測、他の類似したたんぱく質や特徴的な配列の検索、たんぱく質の立体構造予測、遺伝子発現情報の解析などから遺伝子の機能を明らかにして、発生・分化や代謝機能を解明することにある。

 

 最近では、薬の候補物質をスクリーニングして得られた物質の薬理や毒性をはじめ、前臨床試験臨床試験までのデータを統合化する役割も担っている。

 

 日立製作所は、1999年10月、ライフサイエンス推進事業本部を発足させた。同本部は、DNAや遺伝子・たんぱく機能解析など基礎研究を狙っていた中央研究所と、自動血液解析やDNAシーケンサー複数の処理を決められた順に従って行うハードとソフト)を手がけてきた計測器部門、そしてスーパーコンピュータや並列コンピュータによる遺伝子高速解析やデータペースの柵築に取り組んできた情報部門から人材と枝術を結集してスタートしている。

 

 中核となる事業は、以下の通り。

 

  • DNA大規模受託解析サービス

 顧客から与えられたDNAサンプルを大規模なDNAシーケンスセンターで短期問に大

筮解析。

②特定遺伝子領域受託サービス

 特定生物の発現プロファイリング、あるいは疾患関連遺伝子領域の解析。DNA配列のジーゲンレンズから情報解析処理まで。

③遺伝子機能解析情報支援サービス

 臨床サンプルから得られた大量の発現プロファイルデータなどから遺伝子機能を解析するための高機能・高性能な情報処理環境を提供する。

④DNAデータベースサービス

 

 構造遺伝子周辺SNP情報を系統的に収集し、これに遺伝子機能情報、遺伝子構造情報、翻訳/転写領域情報、臨床情報、文献などを関係付け、疾患関連遺伝子特定に有効なデータベースを提供する。

 

 また同社では2000年5月にマイリアド(米)と提携し、製薬企業を顧客としたプロテオミクス(たんぱく質機能解析)にも乗り出している。

 

 オリンパスエ業は99年12月に「高感度DNA光検査システム」を発表している。これは新子不ルギー産業技術総合開発機構(NEDO)から問発委託を受けて完成したものである。血清サンプルから目的とするDNAを分離・抽出するフリーフロー電気泳動モジーユル、DNAを高速・高精度に増幅するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)モジュール、DNAチップのノンラベル光検出を実現する折り返し光路型比較エリプソメータ、それぞれの全自動化を成し遂げた。

 

 感染症の診断は人手や試薬を多く費やし、結果が得られるまでに長時間を要する。光検査システムは、これらの課題を解決し、迅速・安全・低コストなものにした。また。2000年4月には「DNAキャピラリーアレイ」という半導体の微細加工技術を応用した遺伝子情報解析システムを発表している。

 

 ヒトゲノム解析で気を吐いているセレラジェノミクス社は、実は高速DNAシーケンサー「ABI PRISM 3700 DNA Analyzer」があったからこそ、解析を強引に進められた。これを上回る装置が理化学研究所島津製作所によって開発された「RISA1384」というDNAシーケンサーである。このシーケンサーは、セレラ社の4倍の速度を持ち、理化学研究所ではすでに30台が稼働している。

 

 また同社は、ポストゲノムの有力候補「たんぱく質」をターゲットにした解析装置も開発中である。たんぱく質こそ生体活動の主体であり、生命現象の基点であることが判明している。一度に数百個のたんぱく質を自動的に同定する「プロテオーム解析装置」がそれにあたる。プロテオームとは、ゲノムに対するたんぱく質のセットという意味。従来のプロテオーム解析は、二次元電気泳動によって分離したたんぱく群を、レーザーイオン型質量分析計で同定していた。この方法は人手時間がかかり、高速化ができなかった。これを自動化するという研究で同社が一歩進んでいる。

交流磁場―赤血球が薄着になる

 

 運動、指圧、入浴のいずれも、筋肉の運動やほかからの力で血管の運動をおこさせたり、温度の上昇で血管を間かせたりして、滞りがちな血流を改善している。そして、血流がよくなることで、血液自体の流れやすさも改善される。よい方向のサイクルをつくり出しているわけだ。

 

 体に磁場を作用させると、血行がよくなるともさかんにいわれている。そこで、実験を行った。

 

 まず、商用の交流一〇〇ボルトで作動する電磁石六基が組み込まれたマットレスに三〇分横になってもらい、交流磁場を作用させた。その後、血液流動性測定装置MC一FANで血液の流れを測ったところ、一五人中匸一人に、血流改善効果がみられた。横になって安静にしているだけでも効果があるかもしれないと思われたので、磁場を作用させず、三〇分横になってもらい、血液の流れ具含を測定した。結果は、九人中四人で、血液が流れやすくなっていた。安静にしただけで血流が改善されたのは、実験の前の血液通過時間が長かった人たちだった。安静によって、血液中のカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)のレベルが低下したことで、血小板の凝集能が下がったと考えられる。

 

 この安静の効果に加えて、交流磁場の作用は、たしかに血液を流れやすくするようだ。交流磁場がイオンを揺り動かすことで、赤血球の表面に吸着している血漿タンパク質の量を減少させ、その結果、赤血球が変形しやすくなったのではないかと考えられる。