ブドウ糖不足が招く糖尿病

 

 

糖尿病患者やそれが強く疑われる人の数は数倍になっています。現在、糖尿病患者は二二八万 96人、糖尿病が強く疑われる人は七四○万人いるといわれています。

 

 もしも糖分の摂りすぎが糖半病の原因なら、糖分摂取量が減っているのですから、糖尿病患者やその予備軍は減ってよいはずです。それなのになぜ逆の現象がおきているのでしょう。もしも糖分をまったく摂取しなければ、糖尿病にならないのでしょうか。また、なぜ痩せた人にも糖尿病が多いのでしょうか。

 

 じつは糖分摂取をあまりに制限すると、逆に糖尿病になります。これが「糖尿病パラドックス」といわれる現象です。

 

 最近、脳からこのパラドックスの解明か試みられています。

 

 インスリン非依存性糖尿病の原因を、ニールの“倹約遺伝子仮説”では、飢餓の際にも脳に十分なブドウ糖を送るために、他の臓器がブドウ糖を使えないようにする遺伝子があるとしています。

 

 倹約遺伝子が作る物質には、たとえば食欲を抑制するレプチンがあります。レプチンは脂肪細胞から分泌されますが、脂肪が少なくなる(と判断する)と分泌が止まり、そこで食欲の抑制がはずれて食べるようになります。食べることで脂肪を補給するわけです。

 

 また肝臓が分泌するブドウ糖も倹約遺伝子が作るといわれています。ブドウ糖があればインスリンが分泌されて食欲を抑え、ブドウ糖が不足すれば(と判断すれば)分泌が抑えられて、食欲が回復します。

 

 食べる量が増えると、循環する栄養素が増えます(①)。ブドウ糖や脂肪酸が多くなると、その情報が脳に伝わり(②)、満腹感が生じて食べ物の摂取が減ります。同時に、脳は肝臓にブドウ糖産生を抑える指令を出します(③)。すると血糖値などが下がり、それが空腹を生じさせて(④)、ふたたび食べるようになります。

 

 一方、利用分以上に栄養素を摂り込むと(図の⑤から下に向かいます)、余った栄養素は脂肪に変わり、脂肪細胞に蓄えられます。脂肪が増えるとレプチンが分泌され(⑥)、同時にインスリンも増えます。レプチンやインスリンは食欲を抑えるので、食べるのを止めます。

 

 これが通常の空腹・満腹の仕組みです。

 

 ところが脳にブドウ糖が足りないと、脳は他の臓器のブドウ糖の利用を抑えようとします。

 

 まず、視床下部から指令が出て、最終的に副腎皮質からコルチゾルが出ます。コルチゾルは細胞がブドウ糖を摂り込むのを阻害するので、血糖値を高めます。さらにブドウ糖欠乏というストレスは、交感神紅などを介して、細胞のインスリン抵抗性を高めています。インスリン抵抗性とは、インスリンに。反応しない程度”のことです。

 

 こうして、脳はブドウ糖の輸送を確実なものにしようとするのです。これが糖尿病の始まりの状態です。

『脳の栄養失調』:高田明和著より