老化を早める

 

 

 「人は血管とともに老いる」といわれている。これは、どういう意味だろうか。

 もちろん、証明を要求されるような事柄をいっているのではない。人の老化を診てきた多くの医者の、ばくぜんとした印象を語っているものだ。老化は老化遺伝子によっておこる、あるいは活性酸素瘍害によっておこる、といった議論もさかんに行われている。しかし、それでも印象にぴったりくるのが、「血管とともに老いる」なのであろう。「血液循環が悪くなると老いる」といえば、もっとわかりやすいかもしれない。血液によって、十分な酸素や栄養が組織に行き渡らなくなると、組織の機能がしだいに衰えてくる。これが老化なのだ。私は、「毛細血管の数がしだいに減ってくる」というのがいちばん正確だと考えている。

 

 「血管の数が減るのか」と思う人がいるかもしれないが、毛細血管の数は確実に減っていく。毛細血管の径が六マイクロメートル前後で、活性化した白血球や血小板のかたまりで簡単につまってしまう細さだということを思い出してほしい。また、毛細血管をつめてしまうような血液を「トロトロ血液」と定義したことを。つまる状態が長時間におよぶと毛細血管が壊死し、血流が一時的にせよ再間したときには、活性酸素瘍害で毛細血管は傷つくのだ。

 組織の毛細血管が減るだけではない。毛細血管は栄養血管として、大い血管の血管壁に酸素や栄養を供給しているが、それもまた減っていく。そうすると、血管壁の細胞の再生がしにくくなり、血管そのものがもろくなる。そうしたつみ重ねが老化をおこしているのだ。

 

 また、栄養血管が減ると太い血管の弾力性がなくなる。弾力がなくなると、その血管を流れる赤血球や血小板のかたまりによって、血管壁がすれたり瘍つけられやすくなる。瘍をふさごうと血小板は粘着し、凝集しはじめる。その血小板のかたまりが流れではがされて、また、血管壁をいためる。そうしたことが繰り返されていく。そして、大きい血管の老化も顕著になってくる。だから、「血管とともに老いる」という印象がいちばんぴったりくることになる。

 

 安静状態で使用されている毛細血管は二二〇億本。総本数のI〇分の一以下だ。私たちが毛細血管の減少を意識することはほとんどない。しかし、スポーツ選手の場合、「昨日できたことが今日できなくなる」ことで、体のわずかな衰えを切実に感じることができるはすだ。激しい運動をするスポーツ選手は、筋肉中の毛細血管を総動員している。そうすることで、激しい運動量に耐えられるだけの酸素と栄養分を筋肉に供給している。しかし、毛細血管の数が減れば、減った分を補うことはできない。今までできていたことができなくなる。自分自身の体の変化を知らされることになるのだ。

 

 私たちは、目がかすか、物忘れが多いなごといったことで「老化」現象に気づく。目や脳は特に、酸素を多く必要とするので、酸素が十分行き渡らなければその機能が落ちてくる。そのような症状が、毛細血管の減少を最初に感じるときなのだ。

 

 毛細血管の減少がおこることは避けられない。しかし、血液の流れやすさを保ち、血流の一時停止を防ぐことができれば、毛細血管の減少速度をおさえることができ、老化を遅くすることも可能なはずだ。逆に、ドロドロの血液を放置すれば、老化を間違いなく早めることになる。

菊池佑二著「血液をサラサラにする生活術」より