看護学

 看護系の専門雑誌をみると、看護師が辞めていくことを扱った記事の多さに眼をみはる。以前は刑事責任が看護師に及ぶことはめったになかった。しかし、患者と接する時間は医師より看護師が圧倒的に長い。看護師が医療事故につながる処置の最後の担当者になる確率が高い。刑事責任を問う範囲が広くなり、さらに、最終的な当事者の責任が問われることが多くなった。このため、多くの看護師が裁判所で有罪の判決を受けて、犯罪者の烙印をおされている。犯罪者にされる数の何倍かの看護師が、被疑者として警察の乱暴な取り調べを受けている。被疑者にされると看護師は深く傷付く。若い看護師はそれだけで退職する。わが国の経済状況でこのような環境に甘んじて看護師の仕事を続ける理由がない。親も仕事を辞めることを勧める。熱心に仕事をしているにもかかわらず、犯罪者にされかねないような職場で、大切な娘が働くことを望む親はいない。

 日本看護協会が二〇〇四年末にアンケートを実施した。それによると、二〇〇四年度に医療機関に就職した新人看護師の八〇パーセント以上が辞めたいと考え、実際に集計時には八・五パーセントが離職していた。辞めたいと思う理由として、以下の三点が上位を占めた。

 ① 看護職に向いていない(二一パーセント)

 ② 医療事故を起こさないか心配(一八パーセント)

 ③ インシデント報告を書いた(一六パーセント)

 新人看護師に医療事故が大きな影を落としている。

 日本医療機能評価機構の関係者の一人から聞いたが、新人看護師が急性期病院に就職するのを避けて、検診センターなどの比較的安全な職場に就職したがるようになりつつあるらしい。

 聖路加看護大学学長の井部俊子氏は、大病院の苛酷な労働環境に耐えかねて、新人看護師が早々と大量に辞めている状況を「看護のアジェンダ 辞める新人看護師たち」(『週刊医学界新聞』二〇〇五年二月二八日)で悲痛に語っている。この問題は「システムが生み出したものであり」、「新人看護師の早期退職は理不尽な苛酷さのアラームかもしれない」と述べ、問題が医療システムそのものにあることを示唆している。

 就職斡旋業者によると、離職した若い看護師は、退職後、看護師の業務に就こうとしなくなっているという。

 指導的立場の看護師の一人はある座談会で「新人看護師が辞める選択をするのは至極当然。その方が正常だ」とまで語っている(「座談会 看護現場の危険信号」『看護実践の科学』二〇〇四年九月号)

『医療の崩壊』より