乳酸はなぜ疲労物質なのか

 

 運動中に筋肉への酸素供給が不量してくると、クェン酸回路が回らなくなり乳酸がたまってくる。そうすると、疲労して運動ができなくなる。ではなぜ、乳酸がたまると疲労するのだろうか? 多くの研究者は、「乳酸が疲労物質だから」と答えるが、これは答えになっていない。また、「乳酸がたまると血液や体液が酸性になるから」との答えもある。しかし、乳酸と酸度がほとんど変わらない、あるいは酸度が強いかもしれないクェン酸が疲労回復物質であることを考えると、納得がいかない。たしかにクェン酸をとると、クェン酸回路がよく回って乳酸が代謝される。疲労回復物質であることの理由だ。しかし、乳酸もまた、ピルビン酸になってクェン酸回路をよく回すことに変わりはない。乳酸は疲労物質ではなく、本当はエネルギー物質なのだ。では、乳酸がたまると疲労する本当の理由は何なのだろう? このなぞを解いてくれるのが、乳酸とクエン酸の血液の流動性への影響の違いだ。私たちの実験で、比較的、高濃度の乳酸は、血液の流動性を低下させることが明らかになった。それに対してクエン酸は、血液の流動性を高める。激しく運動している筋肉では酸素が不量し、乳酸がたまる。そうすると血液が流れにくくなって、筋肉への酸素供給はますます低下する。血液もさらに流れにくくなる。この悪循環によって、筋肉は完全に酸素不量になって動けなくなる。これが疲労の実態なのだ。

 

 血液が流れにくくなると、その影響は全身の循環におよよ。脳にいく血流は運動中でも一定に保たれていて、運動選手は激しい運動中でも高度な状況判断が可能だ。しかし、血液が流れにくくなると、脳への血流も低下せざるをえない。だから、疲労すると、頭の中が白くなってなにも考えられなくなってしまうのだ。ひどいときは意識がもうろうとしてくる。マラソンのゴールで倒れかかる選手を見ていられない気持ちになるが、そのときの選手は歩くのがやっとの状態で、極度の疲労から抜け出せないでいる。血液が流れにくいままだからだ。

 

 私たちの実験では、同じ乳酸濃度でも、血液が著しく流れにくくなる人と、ほとんど変わらない人と、人によって差かおることがわかった。運動するとすぐ疲れてしまう人と、運動選手の素質をもっている人の違いだと思う。乳酸が血流にあまり影響しない人は練習をつめば、乳酸の影響はさらに小さくなってきて、長時間の運動が可能になる。