調圧神経の作用メカニズム

脳・神経系が血圧調節に非常に重要なことは、ストレスによって血圧が容易に上昇することによっても知られます。この場合、脈拍数も増加し、動悸を訴えることも少なくなります。これは交感神経活動が高まることによります。一般に神経の働きは、生体に起こるべき急な変化に対応するものであるから、血圧が短期間のうちに上がったり下がったりするのは、神経の作用によることが多いと考えてよいでしょう。
慢性の高血圧状態と脳・神経系はどのように関係しているのでしょうか。脳・神経系の病気のときに高血圧状態の起こる場合としては、ウイルス感染によって起きる脳炎や脳腫瘍が知られています。頭蓋内圧が上がると、血圧がある程度上がることも知られています。また脳卒中の急性期にも、しばしば血圧が発作前よりも上昇します。また脳では障害の起こる場所によって血圧が上がったり、逆に下がったりすることも知られています。
またストレスが長く続くと高血圧になるかどうかという問題がありますが、ヒトの場合はその証明は未だになされていません。ストレスには慣れの現象があること、またストレスの程度を客観的に測定できる指標がないなどの理由によります。しかし動物では疼痛刺激や騒音を効かせるなど、慢性のストレス状態に置くと、血圧が上がってくるという実験結果が報告されています。ヒトの場合もストレスは交感神経の緊張を高めることは確かですから、血圧上昇を助長するであろうことは容易に想像できることです。
高血圧状態が続くと、血圧を調節する神経(調圧神経)がそれを下げるように働かず、むしろその血圧を維持するように働くことが知られています。調圧神経は血圧が上がるとときにそれを抑え、下がるときには下げ幅を小さくするように働いて血圧の変動幅を小さくするように調整しますが、それがはたらくセットポイントが正常よりも高い血圧レベルにシフトして高い血圧をあたかも正常の血圧のように完治するようになるからです。
動物実験でこの調圧神経を切除すると、高血圧が起こります。この高血圧は動揺が大きいことが特徴です。調圧神経は、内頚動脈と外頸動脈がわかれる部位にある頸動脈洞や大動脈弓部等に分布しています。
血管を収縮したり拡張したりする神経を血管運動神経といいますが、その働きの中枢は延髄にあります。延髄にある血管運動中枢はさらに上位の脳の働きの影響を受け、高等な精神活動を営む大脳皮質とも神経線維で連絡されています。